猫又

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猫又

「大野君ッ!!」 夏希は走った。 細い腕に渾身の力をこめて、慎太郎の体を抱きとめた。 ふたりでもつれあって、歩道側に倒れこむ。 再びクラクションが響いた。 スマホは、粉々に打ち砕かれた。 何か部品のカケラが、歩道側まで、ひとつふたつ跳ねて飛んだ。 夏希が「バカッ」と叫んだ。 「大野君、なんでそんなにバカなのよ、信じられない」 雨に打たれた夏希の顔は、まるで泣いているように見えた。 「ねえ、スマホがそんなに大事なの?  スマホなんて、どうだっていいじゃない! また買ったらいいじゃない!」 怒ったような泣いたような顔のまま、夏希は一気にまくしたてた。 「あたし、妖狐ちゃんに嫉妬しちゃうよ。 そりゃあたしは、妖狐ちゃんみたいに、美人じゃないけど、全然かなわないかもしれないけど。 あたしは、ここに、こうして生きてるのに……。 あたし、大野くんといっぱい話したくて、ほんとはあやジャス始めたんだよ」
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