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はじめに
「神を愛する人たち、すなわち、神のご計画にしたがって召された人たちのためには、すべてのことがともに働いて益となることを、私たちは知っています。」ローマ8:28
聖書 新改訳2017©2017新日本聖書刊行会 許諾番号4-2-3号
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ぼくは、これから自分がどの道に進んで行くべきか迷っていた。
一応、自分の身分は大学生だ。ただ、いわゆる一般的な大学ではない。通信制の大学で、週に2度ほど、北千住にある学習センターに通ってはいたものの、それ以外は家でネットサーフィンにはまりこんだり、ときたま友達と会うなどのらりくらりとした毎日を送っていた。
「あんたの暮らしは、まるで退職老人よりひどいね」
80才の祖母からそういわれるほど、ぼくの生活にはキャンパスライフとしての彩りがまるでなく、空いた時間は本屋さんに行ったり、近くの河川敷を散歩したりしながら、日々をやり過ごす。大学を卒業してからの進路は白紙だった。
そんなぼくが楽しみにしていたのは、週に1度、おじさんのカフェに遊びに行くことだった。
おじさんのカフェは、学習センターから電車で1時間ほどの距離にある、とある有名な大学通りのはずれにある。日に、お客さんは多いほうで3、4人。まだ開店して1年も経っていないから、そんなものかも知れないと思ったが、それにしても少なかった。
ぼくは、毎週木曜日になると、そのカフェに行き、おじさんとお客さんの会話を楽しんでいた。
店内は、場末のバーくらいの広さで、おじさんはカウンターでコーヒーを淹れているときもひっきりなしにしゃべり倒していた。
自分も、その中でいつしかコーヒーの焙煎や、抽出の真似事を教えてもらった。
そんなあるとき、おじさんからLINEが届いた。
「これから1週間ほど、お店を空けることになった。バイトを雇うお金はないから、良かったら店番をお願いしたい。」
大学は夏休みに入り、アルバイトをする勇気もなかったぼくは、これはうってつけのチャンスだと思った。
おじさんのLINEはこう続いていた。
「報酬は交通費のみ。また、時間は夜10時から明け方の5時までとする。」
おじさんのお店は、深夜営業をしているとこれまで聞いたことはなかった。交通費のみはやむを得ないとはいえ、夜勤はけっこうきつい。
でも……とぼくは思い直した。肉体労働ではないのだから、割合と楽かも知れないぞ。
なぜ、おじさんが7日間も店を空け、どうして、大学生のぼくにお店の留守番を真夜中限定で依頼したかを疑問に思うこともなく、ぼくは軽い気持ちでおじさんの頼みを引き受けることにした。
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