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Kite
春真っ盛りのうららかなな昼下がり。出かけるには持ってこいの日だ。
久しぶりにエリを遠乗りに誘う。
いいね、と満面の笑みを浮かべた彼女は、背後の太陽よりもよほど俺には眩しく見えた。
エリを馬の前に乗せて、俺は後ろから両腕で彼女の体をしっかりと支える。走り出すと、柔らかな風にエリの長い髪が巻き上げられ、俺の頬をくすぐる。それが何だか妙に官能的で、馬をコントロールするのが大変だった。
丘の方へ駆けていくと、大きく枝葉を広げたプラタナスの木が一本立っている。エリと初めて会った時も、この木の陰で2人で涼んだのを覚えている。
サンドイッチでも持っていって、ここで2人で昼寝でもしながら、一日中他愛もない話をしたいと思った。子供ができたら家族全員で、そして年を取って子供が巣立ったら、また2人で。そんな俺の夢を語ってみせたら、案外普通ね、と茶化すように笑われた。それでもいい。エリが隣にいてくれるなら、男が誰もが憧れるような、成功と冒険に満ちた人生は喜んで捨てる。
木の葉と風が奏でるしゃらしゃらという音が耳に心地良くて、俺は次第に眠気を覚えた。隣のエリは、既に寝入っているようだ。エリの寝付きの良さには、いつも驚かされる。
まだ夕刻まではしばらくある。だから少しだけ――俺は微睡みに身をゆだねた。
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