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この話をしてから、堂島さんはあまり帰ってこなくなった。
新事業を立ち上げて忙しい、それが表向きの理由だけど本当は清香さんに対する不信感かもしれない。
言わなければよかったと俺は後悔した。
たまに帰ってくるとまっすぐ夏樹の部屋に行く。翌日は誰にも顔を合わせないように出かけていく。
朝になると疲労感が抜けない夏樹が部屋から出てくる。
「・・・おはよ」
堂島さんがいないときは一緒に朝食を摂る。清香さんは不摂生になった夏樹を心配して、学校が終わったら何か食べてから帰っておいでとしきりに言っていた。
俺は夏樹の部屋で堂島さんに言ってしまったことを夏樹に話した。
「あの清香さんがウソをねえ。それは思いつかなかった・・・」
「俺が何も考えず父さんに言ってしまってから帰ってこなくなった。どうしよう」
「・・・うーん。俺の部屋に来ると荒れてるからなあ。何かあったとは思ってたけどまさか清香さんが」
「いや、確信はない。だけど清香さんに聞けないし」
夏樹は腕を組んで何か考えていた。
「おかしいなとは思ってた。結と智君をどうやってくっつけて考えるようになったのか。多重人格を1人にまとめる事はできるけど、幻覚と現実を重ねるなんて出来るとは思ってなかった」
とりあえず夏樹は大学、俺は予備校に行き、帰りに春馬と合流して事態を話した。
今回は個室居酒屋に入った。
「しばらく静観するのがいいと思うけど」
春馬は相変わらずのハイペースでビールを飲んでいる。
「曖昧にしておいたほうがいい事もある。遊びの部分がないと危ない。父さんと夏樹の事を世間に晒して誰が得する?それと同じ」
まだ酔いが回っていないはずの夏樹が真っ赤になった。
「荒れてるって、どんな風に?」
「悪酔いして乱暴に扱われる」
「他人なのに酒癖悪いのは一緒だな」
春馬はケラケラ笑い、夏樹はさらに赤くなった。
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