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「不育症といって妊娠はするんだけどそれが継続できず流産してしまう。何度も繰り返すうちにだんだん彼女は息子が見えるようになった。幻のね」
つまり現実世界で「息子」を演じてくれる青年を探している、ストレートに言うとそうなる。
これまで何人か養子を取っているのはおそらく彼女の妄想にかなう人材が見つかっていないからで、そこで新たに俺に矛先が向いてきた。
理由はともかく、18才でいきなり世間の荒波に突き飛ばされるのは不安だったし大学にも行きたかった。
「これがうちの奥さん」
堂島のスマホ画面に写るその女性は白く、まわりに溶けて消えてしまいそうな感じの人だった。
中学生くらいに見えるこの人は40才だと聞いて驚いた。
「智くんくらいの男の子がいても不思議じゃない年齢でしょ」
堂島さんは悲しそうに呟いた。
不妊治療というのは聞いたことがあるが、妊娠できてもおなかの中で育てられないって事があるのを初めて知った。
何度も流産を繰り返し、掻爬手術をする。中に子どもの原型があるのにそれを掻き出す。育ててあげられない罪悪感でだんだん心が壊れていく。その過程をずっと見ていた夫が考え出した苦肉の策が人形をあてがうみたいに本物の人間を与えることか。
この窮屈で不条理な現状を突破する足がかりには好条件だ。今これを逃すとチャンスが遠のく。
俺は養子として堂島家に引き取られることになった。
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