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小夜の村は山肌にへばりつくように家々があり、平らな土地がほとんどないため、田畑がせまく、貧しい小さな集落であった。
村の中で一番高い山のてっぺんに千年生きている大きな一本杉あり、村人はその杉を巨木様といって畏敬の念を抱いていた。
小夜がかぞえどしで十歳になった年は雨が降らず、干ばつで作物の育ちが悪く、父や母が途方にくれ、妹と弟が腹が減ったと泣いて、小夜は悲しくて胸がギュッと痛くなった。村のみんなは暗い顔で、どうやって年貢を納めたらいいかと話し合っていた。
父さんと母さんを助けたい、それにはどうしたらいいのか、小夜は小さな頭でくる日もくる日も考えた。
そうだ。一本杉の巨木様にお願いしてみよう。
巨木様は十数年に一度、大太郎という大きな人間になって姿を現すと死んでしまった爺さまに聞いたことがある。まだ見たことはないが助けていただけるかもしれない。
神頼みにも近い思いだったが、山の麓から見上げる大きな一本杉は、集落の生活しか知らない小夜とって天上のもののように見えたからだ。
日照りのため、一人二杯づつと決められた井戸に水汲みに行ったり、夕飯で食べる蕎麦粉を作るために、石臼をひいたりして午前中の仕事の手伝いを終えた小夜は、山のてっぺんに向かおうと家を出た。母は妹と弟と一緒にうたた寝をしてる。夕飯の支度までは帰って、母の手伝いをしようと思いながら、父が畑仕事をしてる脇を通り、あぜ道をずんずん進む。
やがて、木々が生茂る山の際にたどり着いた。
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