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バケモノと男の対峙はしばらく続いた。彼らは言葉を介さずに意思疎通しているようにも見えた。
やがて、バケモノは去っていった。
バケモノの悲しげな表情の残像を見ながら、由紀はあのバケモノが発していた言葉を反芻していた。
『バカにしにきたのなら、ここから出て行け!』
「なぜ逃げなかった」
後ろ姿の男が言った。安心した由紀は腰を抜かして尻餅をついた。
深呼吸を繰り返していたが、まだ混乱が収まらないうちに話し出したせいだろうか。すっかりお礼を言うのを忘れていた。
「あれは、本当にバケモノなの……?」
男にとっても、その言葉は藪から棒だったのだろう。しばらく黙ったまま動かなかった。
男がゆっくり振り返る。由紀は首を傾げた。
男はマフラーで鼻と口を覆い隠し、前髪で左眼を覆っていた。露出しているのは僅かな肌と右目だけ。
「あれは封印を解かれた魑魅魍魎ではない。もとは人間だったものだ」
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