助ケビト

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 由紀はさらに首を傾げていた。  男は続けた。 「五年前、封印を解かれた魑魅魍魎は村を壊滅させたあと、消滅したわけではない。単に拡散したわけでもない。長年の恨みを晴らすために威力を使い切ったあと、弱体化し、日本の世に溶け込んだのだ。弱体化とは、自力で存在を保てないことを意味する」 「じゃあ、どうやって」 「人の弱みにつけ込み、寄生するのだ。さっきのあれは、バケモノに寄生された人間の一人」  由紀は息を呑んだ。 「人の、弱みって?」 「怒り、恨み、悲しみ。負の感情とされるものだ。その感情が強く長期的であるほど、取り憑かれやすくなる。そんな人間は、この村の近くに大勢いる」 「どうして?」 「分からないか。五年前、魑魅魍魎に大切な人を殺された者たちのことだ」  男の語気はだんだん荒くなっていった。 「俺だって、壺に封印された魑魅魍魎を信じていたわけじゃない。だが、大学生の悪ふざけで大勢の人間が死んだ。そいつらももうこの世にはいない。バケモノを憎んだところでどうしようもない。じゃあ、俺たちはいったい何を憎めばいい!」  男の語尾が由紀の後ろへ走り抜けた。男の血走った右目に、由紀は言葉が出ない。  男が突然苦しみ出した。由紀は立ち上がって駆け寄ろうとする。男は何かを振り払うような動作をした。由紀は脚を止めた。男は深呼吸している。なんとか落ち着いたようだ。 「どこにも発散できない負の感情を持つ者にバケモノは()りつこうとする。この辺りには実態のないバケモノがうじゃうじゃ潜んでいる」  男は汗で前髪を濡らして、息を切らしていた。 「村の出口まで付き添ってやる。早くここを立ち去ったほうがいい」
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