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言われて見れば確かに。
特に珍しい物がある訳でもないのにディンスはキョロキョロと辺りを見回していた。
「いいわよ。手とか繋いでた方がいいかな…。て言うか、手、繋いで大丈夫?あたし吹き飛ばされない?」
心配ない、とグロースはヒラヒラと手を振った。
未だ多少の不安は拭えないものの、手でも繋いで居ないとディンスは何処かに行ってしまいそうだ。そっとディンスの手を握った。
不意に手を握られ、ディンスがセフィを見上げてくる。
「ディンス君、迷子になったら色々な意味で大変だから…手、繋がせてね」
特に肯定も否定もしないが、握られた手を振り切る事はしなかったし、嫌がる素振りも見せないので恐らく大丈夫なのだろう、とセフィは解釈した。
「ふふっ、可愛い弟が出来たみたいで嬉しい。あたし兄弟居ないからなぁ」
「おい、勘違いすんなよ。ディンスは俺の弟だ、勝手にアンタの弟にするんじゃねぇ」
「………随分なブラコンなのね…」
スクリーンを操作しつつ、凄い形相で睨め付けてくるグロース。相当可笑しな兄弟だと思っていたが、ストレートに嫉妬をぶつけてくる辺り、変わった弟思いの兄と言う事がわかった。
グロースが道順を的確に調べたお陰で、難なく下路地裏ーー所謂スラムに着いた。
此処はとにかく治安が悪い。貧困層の者達はその辺りの道端で雑魚寝、窃盗やら人が死ぬのは日常茶飯事だ。
そんな中、子ども2人と若い女性1人で来ているのだから、危険極まりない。実際、着いた早々にセフィが男達に絡まれたり、勝手にぶつかって来て因縁をつけて殴りかかられたりした。最も、全てディンスが撃退したのだが。お陰で今は静かだった。
「……此処、何かあるな」
スクリーン画面を開いたままグロースがとあるボロボロのバーの廃墟の前でふと立ち止まった。
「え?此処?ただの廃墟じゃなくて?」
「建物は確かに廃墟なのに、扉だけ新しい。錆すらねぇのはおかしいし、何よりこんなクソ重そうな鉄の扉にするか普通。不自然過ぎんだろ」
言われて見れば確かに。
建物自体は風化しているのに、真っ黒で重厚そうな扉がある。扉には取手も鍵もない。
「セキュリティは…ねぇか。と、なると…至って古典的な手で入るしかねぇ訳だが…」
すう、と一息吐いてグロースが思いっきり扉の横に蹴りを入れた。ボロボロの木材だったので、呆気なく崩れるかと思ったらそうでもなく。崩れ落ちたのはグロースの方だった。声にならない声を上げて足を抱えている。
「弱ッ!!」
「うっせぇ……風化してたから行けると思ったのにこれかよ…」
痛え、と小さく呻くグロースを見て、ディンスが重厚な扉の前に移動した。間髪入れずに思い切り蹴りを入れる。鈍い音は鳴るが、案の定ビクともしない。
「ディンス君、流石にそっちは無理だと思う…」
セフィにそう言われ、諦めるかと思いきや今度は扉から1、2メートル離れた所にテクテクと移動した。其処から風の様な速さで助走を付け、再度扉に思い切り蹴りを入れた。凄まじい音が鳴り響いて、扉に大きな穴が空いた。
「嘘でしょ…どんな足してんのよ…」
明らかに重さ何百キロもありそうな扉に風穴を開けたのに、開けた本人はきょとんとしている。グロースの様に足を痛めている様子も全くなかった。
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