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セフィは勿論驚いたが、グロースも多少驚いたようだった。ディンスを見て、何故か悲しそうに目を伏せて立ち上がった。ディンスがトコトコとグロースに近付いて来て、ちょんちょんと先程痛めた足を指で突く。
「ああ、俺は大丈夫だ。…ごめんな、ディンス」
一体何がごめん、なのか。セフィには良くわからなかったが、グロースが悲しそうにディンスの頭を撫でるので此処は触れない方が良いのだろうと悟った。
「…さて、此処まで厳重な扉の先にあるのは何なんだろうな」
「スクープの予感…!!と言うかスクープじゃないと困る、あたしの生活費が…!」
懐から愛用のカメラを取り出して、ディンスの手を握った。グロースはディンスが開けた大きな風穴から中へと入る。
建物の中は昼間と言う事を忘れそうな位暗かった。
荒れ果てたバー。壊れたカウンターに、椅子と割れた酒瓶が床に散乱している。廃墟になってから大分経過したのだろう。
グロースは開き放しのスクリーン画面を見ながら、辺りを見回して元は酒が大量に並んでいたであろう、壊れた棚を眺める。
「…成る程。これか、隠してたの」
よっと背伸びをして、棚から古びた紙束を取り出した。
「なにこれ?」
「………ロクでもねぇ内容だぞ。人格矯正テストに、とっくの昔に廃棄データになった筈の兵器の研究とかな」
何でこんなモンが残ってんだか、とグロースは溜息を付いて紙束をビリビリに引き裂く。
「ちょっと!何してんのよ!あー…折角見つけたスクープが…」
「こんな下らねぇ紙束より、もっとヤバそうなスクープとやらが出て来ると思うぜ。…もうちょい時間あるな。なぁ、ヘルメスが此処に来てからどの位経つんだ?」
「28日と15時間」
即答で返って来る。正確な日数と時間迄覚えているのだから記者と言うのは伊達じゃないのだろうとグロースは心の中で感心した。
グロースは今迄に得た情報を頭の中で纏め始める。
ヘルメスがこの国に来たのは今から28日前。
奇跡の技と言うのを披露し、話題になるも一般市民からの目撃情報はない。王国騎士団のみが目撃している。
情報やリーク等、ヘルメスの情報は一切流れて来ない。
そしてこの場所。あからさまな廃墟に似つかわしくない重厚な鉄の扉。セキュリティも何も掛かっていなかった。この扉だけで良いと判断したからだろう。
中に隠されていたのは古びた研究書のみ。
恐らく、扉の役割は栓をする事だけ。先程破り捨てた研究書を隠す為だけに設置したと考えるのが妥当か。
「………グロース?ちょっと、大丈夫?」
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