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ニコニコと笑顔で話し続けるが、グロースは益々眉間に皺が寄り、相変わらずディンス本人はただぼーっとしていて何の反応も示さない。
「…仮にその子がちょっと変わってたからってなんなの?変わってるのはアンタだって同じでしょ。史上最速、しかも女性初の王国騎士団長様。どの武器を使わせても一級品、お陰で王国、市民からの人気も絶大。…だったわよねぇ」
「あら、ご無沙汰してます。お褒めの言葉、どうもです。ヘルメスの情報が掴め無いので坊や達と遊んであげてるんですか?お暇そうで羨ましいです」
セフィが盛大に嫌味を吐くも、気にする様子もなくシグレは笑顔でそう返した。
険悪な雰囲気に店の主人が堪らず大きな溜息を吐く。
「営業妨害はやめてくれよ。そう言うアンタは暇じゃないんだろうし、それ飲んだら帰ってくれ」
「そんなに繁盛してます?此処。あ、すみません。ご馳走様でした」
カウンターに飲み物代を置くと、シグレは店を後にした。セフィがシグレの出て行った方を見て、ベッと舌を出した。
「相変わらず感じ悪い!」
「……知り合いなのか?あの女」
「ええ、昔からのね。シグレ、前はあんなんじゃなかったのに…」
ふーん、と軽く流しつつメニュー表を眺める。シグレの呼び掛けに全く反応しなかったディンスがひょこっとメニュー表を覗き込み、ぺちぺちとカレーライスを指差した。
「おっさん、カレーライスを大盛りで頼む」
はいよ、と返事が返ってくるとディンスは満足そうに足をぶらつかせる。
まだ出会ったばかりだし、不躾かとしれないとも思ったが、どうしてもセフィはディンスの様子が気になっていた。
「あの、さ…。ディンス君って普段どうやってコミュニケーションとってるの?すごーくシャイとか?」
「様子見てりゃ何となくわかるぞ。今は腹減った、食わせろだな」
物凄くざっくりとした説明。と言うか、見ればわかる。
「さっきからお腹の音凄いし、そんなの普通にわかるわよ!そうじゃなくて、お話とかは出来ないの?喋ってるの見た事ないけど」
「出来ねぇな。基本的に他人どうでも良いって感じのヤツだし」
「……それ、兄弟としてなりたってる訳?」
グロース曰く、ディンスはディンス、血の繋がった弟なのだから別にどうも思わないそうだ。
まあ、本人がそう思っているならこれ以上どうこう言う必要はないだろうとセフィは小さく溜息を吐いて、所持していた鞄から書類とペンと取り出した。
厨房からスパイスの良い香りが漂ってくる。てんこ盛りに盛られたカレーライスがドン、とディンスの目の前に置かれた。ディンスは御満悦そうにスプーンで黙々と食べ始める。
「…もうヘルメスに直接インタビューしたのが早いかなぁ…。でも騎士団が配置されてるって聞いたし無謀過ぎか…」
さりげなくブレンドのコーヒーを注文して煤っていたグロースがチラッと横目でセフィを見遣る。
「…ヘルメスって誰?」
「はあ?アンタ知らないの!?今話題中の人、進出鬼没、奇跡の技と技術で不死の病を治したり、何も無い所から宝石とか出したりするんですって。…まあ、あくまでそう言う噂だけどね」
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