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意気揚々に語るセフィの説明を聞いて、グロースは少々考え込んでから、へえと適当な返事を返した。
「何よ、自分から聞いといて」
「……別に。その技術を実際に目にした奴は居るのか?」
「王国騎士団が目撃したんですって。一般市民はそもそもヘルメスには近付けないし。何でも王国から専用のラボを貰って、普段は其処に入り浸りらしいわ」
要するに国のお偉いさんしか見てないって訳か、とグロースは益々胡散臭く眉間に皺を寄せる。
「そのラボって何処にあるんだ?」
「さあ。ヘルメスの情報は何も流れて来ないから」
「…仕方ねぇ、調べるか」
そう言うとグロースはちょいちょい、と何もない空間を指で触る。すると何もなかった空間から突如透明なスクリーンが現れた。非常に慣れた手付きで操作し始める。
「…場所は…随分入り組んだ所だな、こりゃ。で、扉にはセキュリティロックがかかってる、と。このタイプのロックな、成る程」
「…アンタ、機械工学とか出来るのね。この国で使える人とか学んでる人あんまり居ないのに」
「一応これでも研究者なんでな。機械工学だけじゃなくて生物学やら薬学、動物心理学…まあ殆ど頭に叩き込んであるぜ」
明らかに十代半ばにしか見えない年端もいかない少年が研究者。それも色々な学を身につけている。
一体どんな人生を送っているのか、とセフィは少々心配になってしまった。
「おう、ディンス。食い終わったか?ちょっと調べたい事があるから着いて来てくれ」
そう言ってカウンターに飲食代を置いて立ち上がった。
カレーをぺろりと平らげたディンスは林檎ジュースを空にしてからぴょい、と椅子から降りてグロースの後を着いて行く。
「まさかとは思うけど…アンタ達、ヘルメスのラボに行くつもり?」
「そのまさかだけど」
「馬鹿なの!?ヘルメスの周りは王国騎士団がガッチリ固めて情報すら入って来ないのよ?ラボになんか近付ける訳ないでしょ!」
王国騎士団はこの国のエリート騎士団だ。武器や護身術に長けた者達が勢揃いしている。
先程絡んできた盗賊ギルドの連中とは訳が違う。自らとっ捕まりに行く様なものだ。
「全然問題ねぇよ。調べた限りじゃセキュリティもザルだし、裏をかいていける。な、ディンス」
余裕の表情でディンスの頭を撫でる。いや、その自信は何処から現れるのか。セフィは頭が痛くなったが…これは逆にチャンスなのでは?と彼女の記者根性に火が付く。
「あのさ、あたしも行っても…」
「却下」
「せめて全部聞いてから断りなさいよ!」
無常にもきっぱりとグロースに断られる。
「足手纏いを増やしたら動きにくくなるし…。それに、ディンスが、なぁ」
口を濁すグロース。セフィがただ足手纏いと言うだけではなさそうだ。何かディンスに問題があるのだろうか。
「ディンス君が何?ちょっと変わってるけど…可愛い男の子じゃない。ね、ディンス君」
しかし、ディンスから反応は相変わらず返って来ない。
セフィもめげずに食い下がる。やっとヘルメスの情報が掴めるかも知れない、この大スクープを逃したくなかったのだ。
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