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「…仕方ねぇな。ディンスの頭、撫でてみてくれ」
「え?いいの?…だ、大丈夫かしら…」
「多分。……駄目だったらアンタが病院送りになるだけだ」
問題大アリだ。セフィはごくりと息を飲んでぼんやりと立っているディンスの頭に恐る恐る手を伸ばした。
ーーぽふ。
ふんわりとした髪の感触。思わずセフィはぎゅっと目を閉じるも、特に何も起こらない。
「あれ…、あたし無事だ…。普通にディンス君も撫でさせてくれてるし…」
これまでセフィの事等見向きも反応もしなかったディンスがじっと彼女を目を見て、ただ大人しくしている。
「良かったな、アンタは煩いけど悪いヤツじゃないって認識したんだと思うぜ。嫌なヤツだと即蹴り飛ばすからよ、コイツ」
「…認めてくれた、って事でいいのよね。有難う、ディンス君」
出会ってからずっと無視状態だった為、嬉しくなってセフィは思わず笑みが溢れた。それを見たディンスが不思議そうに首を傾げる。
「でもさ、何で頭撫でると反応してくれるようになるの?」
「んー…何か感じ取ってんのかもな。ディンスは観察力やら危機察知能力も抜群だし」
確かにセフィが頭を優しく撫でている最中、ディンスは様子を伺うかのようにじっとセフィを見つめていたが、特に暴れる様子はなかった。セフィに敵意や悪意はない、と判断されたのだろうか。
「えーと…宜しくね、ディンス君」
直接的な返事は返って来ないものの、任せろと言いたいのか、ディンスは背伸びをしてセフィの頭を撫で返す。
それにしても、本当に不思議な兄弟だ。兄の方はやたら色々な学を身につけているし、常に冷静。…おまけに自分が苦手としているブラックコーヒーを好んで飲んでいたし。
弟の方はもっと不思議だ。何事にも興味を示さないし、反応もないし、話す事もない。小さい身体の割には凄く沢山食べる(成長期と考えても食べ過ぎな気もするが)極め付けは大の大人を余裕で蹴り倒す身体能力。一体どう言う兄弟なのか。
「……おい、早く行こうぜ。日が暮れちまう」
「あ、ごめん!今行く!」
痺れを切らしたグロースが文句を垂れる。
セフィは慌てて愛用の鞄に仕事用品をしまい、ご馳走様でしたと店主にお礼を言って席を立った。
外に出るなり、グロースがちょいと何も無い空間を触ってスクリーンを出した。どうやら道順を調べているらしい。
「最短ルートは、と…。成る程な、下路地裏を行けば良さそうだ」
「下路地裏って…治安かなり悪いわよ。盗みでしょ、殺人、違法薬物の売買とか。因みにさっき襲ってきた盗賊ギルドがあるのもその辺ね」
へぇ、と短い返事が返って来る。口調や表情からするに特に気にも留めていないし、問題もなさそうだった。
盗賊ギルドに関しては先程盛大にディンスが撃退したので問題はないか、とセフィは苦笑した。
お陰様でまだ街の人々の視線が痛い。兄弟は全く気にしていない様子だったが。
「アンタに一つだけ頼みがある。ディンスの事見ててやってくれねぇか?俺はこれ弄りながらだとあんまり様子が見れねぇし、そいつフラフラどっか行っちまう癖があるからよ」
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