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「エド……あなたはもっとクロリエ様の話を聞くべきです」 「キャディ?」  こうなれば仕方ない、速やかに軌道修正を試みる必要がある。  幸いまだ手遅れじゃないはずだ。  初面識は済ませてあるし、二人の会話の回数が増えればシナリオの強制力みたいなものが生じて恋に芽生える可能性は少なくない。 「可哀想なクロリエ……きっと心に抱えた闇を誰にも相談できずにいるのでしょう。誰かが包み込んであげなければ」 「キャディは優しいね。テイラー嬢に話してみなよ、きっと喜ぶよ」  いやお前がやるんだよ。 「小さい頃から外見のことで虐められ……さぞ辛かったでしょうね。これは同じく幼少期から虐めを受けていたあなたしか理解できません」 「ん~僕の場合はキャディから虐めを受けていたっていうか……今思えば愛情表現? みたいな?」  おいそこ勝手に過去を美化してるんじゃない。間違いなく私は毎日のように虐めて泣かせてたよ! 自分の命が惜しくてな!  そこ間違えるんじゃない。 「いいえ!! クロリエ様を理解できるのはエドしかいないのです!! ほら!! わかったら今すぐ話しかけに―――」 「ねえ、さっきから妙にテイラー嬢のこと推すけど、何がしたいの?」  強引に話を収束させようとしたら何かに思い至ったようなエドウィンに邪魔されてしまった。  何がしたいのかだって? そんなのエドウィンとクロリエをくっつけたいに決まってる。そして自由を得るのだ! 「キャディが優しいのはわかった。でも冗談でも他の女の子と仲良くしろだなんて言わないで?」 「別に冗談では……」 「―――は? 本気で言っているの?」  ……ッ!  その時確かに、ゾワリと寒気が背中に走った。  エドウィンのルビー色の瞳はかつてないほど冷たく、ふんだんに威圧が込められているように感じる。 「エ、ド……?」 「そんなわけないよね? 僕は婚約者だもんね?」 「あの……でも、私はクロリエ様との恋を応援していますよ?」 「……」  だって君らがくっつかないと私自由になれないもん。早くこの呪いも解いてほしいし。  しかし、本音を言ったらさらにエドウィンの周りの空気が凍りついた。あれ、なんかめちゃくそ怖いんだけど。  え、大丈夫? 泣き虫エドウィンどこ行った?? 今にも私が泣き出しそうなんですけど。 「はあ……アイツもキャディも、どうして彼女とくっつけようとするんだ……」 「アイツ……?」 「とにかく、君は僕の婚約者だ。近い将来、君と僕は結婚するの。それを拒むなんて……たとえキャディでも許さないよ?」 「ヒッ……」  いやほんとに大丈夫!? 私殺されそうな勢いだよ!? こっわ!!  まさかクロリエのことを勧めただけでこんな豹変するなんて……信じられないけど、もしかしてエドウィンって――― 「エド……つかぬ事をお聞きしますが、まさか私のこと好きなんですか?」 「なに今更。当たり前じゃん」  はあああああ!? 聞いてませんけど!!?  おかしいだろ!! 何故そうなる!? 私はずっとお前を虐めてたんだぞ!? 「エ、エド、落ち着いてください。落ち着いてもう一度よく考えましょう。私はあなたを幼少期からこれでもかというほど泣かせてきたんですよ? そんな女を好きになるなんて正気の沙汰とは思えません」  早くコイツの目を覚まさなくては! と語りかけるように説く。  しかしエドウィンは穏やかな顔で首を振った。 「そんなことないよ。だってキャディは優しいじゃん。虐めてたのだって本意じゃなかったんでしょ?」 「まあそうですけど……でも百パーセント自分の為です。自分が生き抜くためにあなたを虐めてました」 「うん、それでも。虐めた後はちゃんと謝ってくれたし、誠意を示してくれた」 「そ、それも自分のためです。あのまま虐めてるといずれあなたに殺されると思って……」  こ、これは少し暴論か? シナリオがそうなってるんです!! って言っても信じてもらえないだろうしな……。  エドウィンを見るとこれ以上ないくらい眉間に皺を寄せている。  うううこわっ! 「アイツもそんなこと言ってたな……ふっ、そんなわけないのにね。僕がキャディを殺すなんて……」  いやだからアイツって誰だよ。 「ああでも、こうやって僕から必死に逃げようとするキャディを見てるといっそ殺してでも自分のものにしたくなるよ」 「は、はい!?」  なんでそうなる!? お前言ってることヤバイなんてもんじゃないぞ!? 「確かに僕は正気の沙汰じゃないかもしれない。キャディ、責任とってよ」 「!!!」  いや、ちょ、待てって。だから落ち着けって。  なんなのコイツ完全にイカれちゃってるよ。  誰がお前と結婚するって!? もうお前がバッドエンドみたいなもんじゃん!!  そんなの、そんなこと…… 「むむむ無理ィイイイイイイ!!!!」  気付いたら教室を飛び出していた。
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