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 とにかくその日は、適当な理由をつけて早々に部屋にこもった。状況を整理する必要がある。  私はどうやら乙女ゲームによく出てくる悪役令嬢で、攻略対象の婚約者というこれまたありがちなポジション。  幼少期から婚約者であるエドウィンを虐め泣かせていたせいで、ヒロインと初めて会った時には彼から表情や感情が抜け落ちていたという。  そしてヒロインと接していくうちに段々人としての感情が芽生え、ゆっくりと愛を育み―――ってそんなことはどうでもいい。  大事なのは私だ。私がどうなるか、だ。  さっきも言ったようにこのままだと間違いなく死ぬ。だって現状まさに悪役令嬢そのまんまだし、この流れでエドウィンを虐めたら彼から表情を奪い、ヒロインと恋に落ちるきっかけになってしまう。  そして当然の流れのようにヒロインを虐める私をここぞとばかりに断罪するだろう。彼に蓄積された怨恨は計り知れない。  ―――さて、これをどう回避するか。  話は簡単だ。もう今後一切誰も虐めなければいい。  幸い私はまだ6歳だ。若気の至りだった、で全て説明がつく。  いきなり人格が変われば周りは不審がるだろうが、背に腹は変えられない。自分の命が何よりも大事だ。  そう思い立ち、私はその日を境に生まれ変わった。  もう自分の思い通りにならなくても怒鳴り散らさないし、言うことを聞かない使用人がいても勝手に解雇しない。  ……うん、改めて見ると相当酷かったな自分。  そして婚約者であるエドウィンにも出来るだけ優しくした。  ―――が。  生まれ変わってから3日も経たないうちに、私の意識は突然プツリと切れた。  目を開けると、そこは桃源郷のような、楽園のような、よくわからない場所だった。  空はピンクで湖はオレンジ色、パステルカラーの花畑に虹色の蝶々。  ぼんやりとした頭を持ち上げると、誰かに肩をポンと叩かれた。 「やっほー」 「!?」  そんな軽快なノリで現れたのは、自分より少し背の高い男の子。  髪は紫と青と水色のグラデーションという、オーロラみたいな色だ。 「僕はオーロラ」  名前もオーロラだった。 「この世界の神様だよ」  そして神だった。いやそんなわけあるかい。 「あ、今そんなわけあるかって思ったでしょ。残念でした~本当に神様だもん」 「……」 「ねえそのウジ虫を見るような目やめよう?」  おっと、この自称神様意外と鋭いみたいだ。だってあんたがなんだろうと心底どうでもいいんだもん。それよりもまずこの不思議体験の説明をしてほしい。  これは夢? でもそれにしては感覚とか妙にリアルなんだよなー。 「ちなみにこれは夢じゃないよ」 「……」 「死後の世界とかでもない」  うん、まずは心を読むのをやめてもらいたい。 「じゃあここはなんですか?」 「言ったでしょ?神様の世界だよ」 「……」 「あ、信じてないな?もう~」  ぷっくりと頬を膨らます自称神様。  確かに目鼻立ちがしっかりしている彼がそんな表情をすれば可愛いのだろうが、今は全く萌えない。  早く状況説明しろっての。 「こう言えば信じてもらえるかな?君をこの世界に転生させたのは僕だよ」 「!?」  この世界―――つまり乙女ゲームの世界。  は? じゃあ何、私はこいつのせいで悪役令嬢なんてものになって、バッドエンドまっしぐらってこと?  いや、まあこのまま善行を続けていればバッドエンドは回避できるだろうけど。 「でさ~君をここに呼び出したわけは……今とても困ってるからなんだ」 「……というと?」 「君はつい先日自分がこの世界に転生したって気付いちゃったよね?」 「はい」 「それでこのままだとバッドエンドが待ち受けてるから、悪役をやめて良い子になろうと―――」 「そうですけど、それが何か」 「それじゃあ僕が困るんだ」  何言ってんだろうかこの自称神は。
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