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 やれやれ、といったように首を振る見た目完璧メンヘラ男。さっきからいちいち癪に触るんだが。 「この世界はね~僕が作ったんだけど~」 「……」 「キャラクターにはさ~それぞれの役割があるんだよ~」 「……」 「君の役割は《悪役令嬢》。周りの人間を虐めてもらわないと困るの」  ……とりあえず殴っていいだろうか。 「うわっ、急に何するんだよっ」 「……」  腕を大きく振り下ろしたらふわりと宙に浮かんだ神。クソ、反則技使いやがって。 「あの、それはつまり私に死ねと言っているんですか?」 「うん、それが君の役目だからね」  この神様とんでもない。 「君は婚約者やヒロインを虐めまくって、恋のキューピッドになって、最後は断罪されるんだ!」  そう満面の笑みで言い放った神。そんな神に私もニッコリと笑みを向ける。 「い や で す」  ふっざけんな神この野郎!!!!  そんなお前の道楽如きで私を殺す気か!? はあ!? 神だからってなんでもしていいわけじゃねえからな!?  お前の世界を盛り上げるために私を転生させたってか!? ふざけんな!! 例えそうだとしても思い通りになってたまるか!! 「それは困るな~」  するとさっきより少しだけ真剣みを帯びた表情をした神。  さっきから困る困る言ってるけど、この世界が乙女ゲームに酷似した世界だと知ったからには幾らでも回避の仕方はある。  そう易々と死んでたまるか!  とそのとき、いきなりオーロラ色の髪を持つ神がパチン! と指を鳴らした。 「じゃあこうしよう。君には呪いをかけてあげる」 「ッはあ!?」 「3日連続で誰も虐めないと死ぬ呪い。4日目になった瞬間君の心臓は止まる」 「はああああああ!!?」 さも閃いた! というようにキャッキャと喜んでいる神。いや紙。ってか紙クズ。  いやいやいや。  は?? 何言ってんのこの神??  正気か? 正気なのか??  誰かを虐めないと死ぬ呪い? 冗談だよな? な?  さすがにそこまで極悪非道じゃ――― 「はい、かーけたっと。じゃあこれからはちゃんと《悪役令嬢》頑張ってね。……死にたくなかったら」  じゃあねん! と言い残しシュンと消えたオーロラ色。  瞬間、ツキンと鎖骨辺りに痛みを覚え、見てみると雫みたいな形の痣が浮き出ていた。  ……は? 何が起きた??  え? マジで呪いかけられたの?? 嘘でしょ?? 「誰か嘘だと言ってえええええ!!!」 「ッ! お嬢様!!」 「キャンディス!!」 「キャディ無事なの!?」  ハッと目が覚めた。  身体を起こすと、左側に医者らしき人がいて、右手をお母様が握っている。そのお母様に寄り添うようにしてお父様が立っていた。  ……え? ここは現実世界? じゃあさっきのは夢……? 「お嬢様、とりあえず身体に異常がないかチェックするので体を横に―――おや?この痣はいつできたのですか?」 「!!?」 バッ!! と、医者を跳ね除けて自分の鎖骨を見る。  するとそこには夢の中で見た時と同じような雫の形の痣がくっきりとあった。  ……いや、夢じゃない。あれは、あの最低最悪な神は夢じゃなかったんだ。って、ことは――― 「お、お母様!! 私ある日を境に良い子になったわよね!?」 「えっ? そ、そうね……少し我儘だったのが、すっかり大人しくなって――」 「そうなってから今日って何日目!?」  私の我儘は少しという次元を遥かに超えていただろうけど、今はまあいい。  それより大事なのは…… 「いきなりどうしたの?」 「いいから教えて!!」 「み、3日目かしら?」  ひいいいいい!!!  3日目!? 嘘でしょ!? それってヤバイんじゃないの!?  もし本当にあのクソ紙クズの言う通りだったら私は明日死ぬ。  いや、もしかしたらカウントは目が覚めてからかもしれない。仕組みがよくわからない。  だけど―――― 「お、お嬢様。顔色が優れないようですが……もう少しお休みになられた方が」  さっきから感じるこの倦怠感。これは高熱を出した時の感覚に似てる。  いや、それ以上に辛い気がする。もしかしたらこのまま死んでしまうのではないかと錯覚するほど――― 「侯爵様、奥様! ローランド公爵のエドウィン様がお嬢様のお見舞いにいらしてますがどうしたら……まあっ、お嬢様、目を覚まされたんですね!」  寝室の扉が開き、そんなメイドの声がした途端私はベッドから飛び出していた。  後ろからお母様達の制止する声が聞こえる。だけど今の私にはそんなの届かなかった。  ただひたすら1つの切なる願望を胸に宿し長い廊下を駆け抜ける。  ―――死にたくない、死にたくない、死にたくないっ!!
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