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「キャンディス……キャディ!!」
「……エドウィン様?」
どさくさに紛れて私の名を愛称で呼んだのは、初めて会った時に比べ少し成長して可愛いから綺麗な顔立ちになったエドウィン様だった。
ドアを開けたメイドを突き飛ばす勢いでベッドに駆け寄るエドウィン様。
「キャディ、どうしたの!? やだ、死なないでっ」
わーお、いつになく勢いがすごい。なんかもう半泣きモードだし。
「エド、ウィン様……」
「エドって呼んでっ」
「……え? あの、」
「エドっ」
「……エド、」
いや、そんなことはどうでも良くてだな。
「あの……いつもいつも泣かせてしまってすみません」
「ううん、そんな気にすることないよっ。それにいつも僕を守るためなんだもんね?」
「(うんまあ嘘だけど)それで……つかぬ事をお聞きしますが、昨日は泣いていらっしゃらなかったのですか……?」
「ッ!」
もうこの際聞いてしまえと質問を投げかけると、エドはギクリと肩を揺らした。
暫く逡巡したように視線を彷徨わせ、遠慮がちに口を開く。
「……キャディは僕を泣かせたいの?」
「ッ……、」
キャンディス、10のダメージ。
なんだその聞き方は私が危ない性癖の持ち主みたいじゃないか。
別に私はサディストでもなんでもない。これは全て生きる為にやっていることなんだよッ!
さて、理由を言うべきか言わないべきか……。
「本気で泣かせたいというより……泣かせないと私の命が……」
「命!?」
「く、詳しいことは言えないのですけど……神のクソ野郎が……」
「神!?」
「いえ、なんでもありません」
うん無理だわ。普通に考えて信じてもらえるわけがない。
しかもこんなこと大真面目に言ったらそれこそ私がアイタタタじゃないか。
すると何やら考え込むエド。
「仕組みはよくわからないけど……今キャディがこんな状態なのは僕が昨日泣かなかったせいってこと?」
「まあ、はい……そうなりますね」
「僕の、せい……」
「っい、いや、私もエドが泣いたと疑わなかったせいといいますか……」
自分を責めようとするエドは心が優しすぎるのではないか。普通に考えて自分を虐めてくる女に泣かされなかったことに罪悪感を感じるのはおかしい。
……でも、やっぱり不思議だ。昨日は確かにエドは泣いたと思ったんだけどな……。
まさか、泣き真似……?
「ダメなんだ、最近……キャディの虐めに優しさが隠れてることに気付いちゃったし、泣いた後はご褒美が待ってると思ったら嬉しくなっちゃって……」
「え?」
すまん、考え事してたら何も聞こえんかった。
「でも僕が泣くまでは決して虐めをやめないことを知ってたから、つい嘘泣きを……」
「嘘泣き……」
よし、今回はちゃんと聞こえたぞ。
そうか。やっぱり昨日のは嘘泣きだったのか……。だから昨日のことはカウントされずに今こんな状況になってるんだな。
確かに私はエドが泣くまで決して虐めを中断させることはしなかったので、手っ取り早く解放されるためには泣くしかない。
でも確かにエドはもう12歳だし、そう易々と泣けないのかもしれない。
ど、どうしよう……このままじゃ私の死活問題に関わってくるぞ……。
非常にやりたくないが泣かせる用の幼児を何処からか見繕わないといけないのだろうか……。
ああ、ダメだ。そんな人間例えエドじゃなくても嬉々として断罪されるわ。
「とにかく、僕が本気で泣かないとキャディは元気にならないんだよね……?」
「そうですね」
「わかった。じゃあ1つ考えがあるんだ」
「考え……ですか?」
「うん。昔のようにただ虐められるだけじゃ泣けなくなっちゃったけど、コレだと効果抜群だと思う」
エドは自信満々にそう言って、唇を私の耳に寄せた。
「え……本当に?」
「うん、ちょっと言ってみて。できれば心底軽蔑するような表情で」
心底軽蔑するって……こんな感じかな。とりあえずエドに言われた通り口を開く。
「あなたのことなんて、大っ嫌い」
「……ッ」
そう言い放つと、みるみるうちにエドの顔が歪んでいった。
「ううっ、酷い……キャディ、そんなこと言わないで」
「もう顔も見たくないわ」
「ううっ……ヒック」
すると、ポタポタと流れてきた涙。
おお、凄い。マジで泣いた。
いや、でもなんで私が『嫌い』って言っただけで泣くんだろう? よくわからないな。
エドが泣き始めた途端、あっという間に体から鉛のような重さが消えていった。ゆっくりベッドから上半身を起こす。
うん、なんともない。どうやら成功のようだ。
「キャディ、やだよ……ッ」
「……」
「僕を一人にしないでっ」
「エド、あの、」
「キャディ……ッ」
それにしても、この茶番いつまで続けるんだろうか。
一向に泣き止む気配のないエド。
え、それ演技じゃなかったの? ガチで悲しんで泣いてるの? 私に嫌われたと思って?
おいおいおいおーい。どうしたらいいんだこの泣き虫。
「エ、エド? 私はあなたのこと嫌いじゃないですよ?」
「……ほんと?」
「はい。お陰様ですっかり元気になりましたし」
「じゃあ……ん」
とりあえず慰めようとエドをあやしていたら、両手を広げたポーズのまま固まったエド。
これは私が暗い部屋に閉じ込めた後、恐怖を拭い去ろうとやっていた行為に酷似している。
つまりは……ハグをしろと。
「はい」
「へへ、キャディあったかい」
そんなんで泣き止むなら、と黙って彼の腕の中に収まる。いつの間にか彼の方が身体が大きくなっていた。
エドが私の髪を撫でる中、ふぅと安心したように溜息を吐く。
よし、これで今日も生き延びることができた。このままバッドエンド回避を目指そう!!
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