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「ほら、キャディ。ちゃんと泣けたよ。ご褒美ちょうだい」 「……はい」  誰もいない教室で、たった今涙を流していたエドがケロリとした顔で屈んでみせた。  恒例のエドウィン泣かせは今もまだ続いている。  一時本当にエドウィンが泣けなくなって、それを相談されたことがあった。  呪いの内容は『誰かを泣かせればいい』から、エドウィンにこだわる必要はないと思い、それをほのめかしてはみたんだけど……。  何故か次の日からは完璧に泣けるようになっていた。  エドウィンは将来有望な役者になれるだろう。  この世界には生憎役者は存在しないが、もしもの時は私が全力でプロデュースしたい。必ず売れる。  そしてその頃から、エドウィンが泣けたご褒美を要求してくるようになった。  私としても幼少期から呪いに付き合わせてしまっている罪悪感があったのでできる限りは応えるようにしている。  今回は『頬にキス』なようで、少し屈んだエドウィンの頬に背伸びをして唇を当てると、満足そうにエドウィンが笑った。  何故これがご褒美になるのかさっぱりわからないが、本人がそれを望んでいるなら仕方がない。  あ、そうだ。私の努力が報われているか本人に確かめてみよう。 「エド」 「なあに? キャディ」 「クロリエ様とは順調ですか」  ちゃんと顔を合わせる度嫌味を言っているし、わざと物を隠すなどの虐めも行なっている。抜かりはないはずだ。  そして私が助言した通り、エドウィンに助けを求めているのなら今頃二人は恋人街道まっしぐらだろう。 「ああ、そういえばこの前相談されたっけ」 「そうですか。それはいいことです」  よしよし、順調みたいだな。 「キャンディス様から毎日のように虐められるけど、あの方の真意がよくわからないって」 「なるほど」 「嫌味を言われたり物を隠された後は必ずその日のうちに謝罪と隠し場所の在り処を手紙で教えてくれるから、だって」  まあね、私に虐める気はないし、余計な恨みも買いたくない。  神様には虐めてキューピッドになれと言われているだけで、アフターフォローしちゃいけないとは言われてないもの。 「もしかしたら、キャンディス様は私と仲良くしたいのに、その方法がわからないだけなのかもって言ってたよ」 「ふむふむ……って、え?」  いやいやいや、クロリエ嬢? なんでそうなった?  ちょっとポジティブ過ぎやしないかね。いくら手紙でフォローしてるといっても虐めには変わりないよ。普通にエドウィンに慰めてもらえよ。 「それで……エドはなんて?」 「うん。僕もキャディに虐められてたけど、それにはちゃんと意味があったから気にする必要ないよって」 「……」  いや、ダメじゃん!! 『気にする必要ない』なんて言ったらもうエドウィンに相談しなくなるじゃん!!  ちょっと!! 余計なこと言わないでよ!! 「彼女を虐める理由あるんでしょ?」  だからそれはお前らをくっつける為だってば!!  ああもう、エドウィンがそんな能天気だとは思わなかったよ。  クソ、アフターフォローがこんな裏目に出るとは。これからは徹底的に虐め抜かぬかなくちゃ……。 「逆にキャディは最近テイラー嬢とどうなの?」 「……はい?」 「いや、彼女が今度キャンディス様に話しかけられたら普通に会話してみるって言ってたからさ」  クロリエェエエエ。  虐めてくる女と仲良くなりたいってどういうことだよ?  大丈夫? 頭の中お花畑なのかな??  うわ、だからこの前会った時嫌味言ったら笑顔で『今日も良い天気ですね』って返ってきたのか。  その時は何が起きたかわからなくて逃げ帰っちゃったけど……。  クロリエやべーよ。純粋無垢にも程があるよ。  ええどうしよう、このままじゃエドウィンとクロリエくっつかなくない?  だってシナリオじゃ『いつも私を助けてくれるエドウィン様かっこいい……キュン』みたいな感じで好きになってたじゃん??  エドウィンも『あの悪女からクロリエを守ってやらないと』みたいな感じだったじゃん??  あれ、いつから話が狂った??
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