舌切り女

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 今から遡ること200年くらい前、上野の国は前橋に誰もが認めるオシドリ夫婦が住んでいた。  仲がいいだけに夫の佐助は妻のお夏に全幅の信頼を寄せていた。何しろお夏は容姿こそ芳しくなかったが、気立てが良いと部落の間で評判が高く、佐助もそう感じていたのだ。  或る日も佐助はお夏と仲睦まじく縁側に座って寛いでいると、お夏が帯飾りの根付で留めてあった巾着袋の中から米粒を取り出して縁先にばら撒いた。  すると、庭木にとまっていた雀たちが欣喜雀躍と舞い降りて来て米粒を啄み出した。  その様子を目を細めて眺めているお夏を見ても佐助はとても温かな気持ちになり、お夏の優しさに縋りたい気持ちになるのだった。  その時だった。庭木にとどまっていた雀がお夏の作った洗濯糊が入れてあるお椀の所へやって来て一口二口と洗濯糊を啄んだ。
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