舌切り女

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 それに気づいたお夏は、勃然と色をなし、横にあった裁縫箱から鋏を取り出すと、猶も洗濯糊を啄む雀に近づいて行ってそれを素早くふん捕まえて、その舌を鋏でちょん切ってしまった。 「アッハッハ!ざまあ見ろってんだ!これでお前はもう何も味わえないよ!さあ、何処へでも行っちゃいな!」  お夏が痛快になって舌切り雀を放すと、舌切り雀は泣く泣く自分の住む神庫山へ帰って行った。  当然ながら佐助は甚だしく幻滅して、「なんて惨いことをするんだ!」 「煩いわねえ!私の苦労して作った洗濯糊を盗み食べたのよ!悪い雀には罰を与えて当然でしょ!」  鬼の形相のお夏に対し佐助は化けの皮を剥がしたなと思い、今までとの余りの落差に甚だ恐ろしくなり、せめて雀に謝ってやらねばという思いも手伝ってこの場を逃れるべく慌てて庭を出て神庫山の方へ駆け出した。 「おーい!舌切り雀や!大丈夫か!何処にいるんだ!出てきておくれ!」  佐助が神庫山の山道を進みながら必死になって探していると、道端に地蔵が立っている所まで来た時に舌切り雀が佐助の前に舞い降りて来て口を開けて舌がないことを示した。
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