玄関開けたら三分で異世界

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女子という生き物は何かにつけて群れるのが好きだが、私は休憩時間でも何でも、ひとりきりでボ~としているタイプだった。 大学生活もその繰り返しだ。試験や資格をとるのに必要な分だけ勉強して、友達とのお喋りもいつも受身で、残りの時間は食う寝るボ~とするに集約される。 そんな私だが、大学四年になり就活を控えた頃やりたいことを見つけた。 一人暮らしである。 今まで親元にいた。 倖い、実家は物持ちで両親は優秀な人たちである。共働きの両親だが家政婦さんや兄がかまってくれたので、幼い頃からそれなりの愛情にも恵まれていたと思う。 学費や交通費にも困らず、好きなことだけして生きてきた。主にボ~としてたが。 そんな私が、だ。就職したら実家を出て一人暮らしがしたくなった。 卒論を進めながら就職活動をした。就職先に高望みはない。 ただ、持っている資格を有意義に使えそうなところを選び、面接を受けた。 これまた幸いに、最初に受けたところから内定が出て就職先が決まった。 卒論も通った。後は住むところである。貯金していた配当金を持ち出した。 数千万の新築マンションを購入。 駅近で、何よりセキュリティ面が気に入って購入に至った。 自分の部屋に入るにはまずマンション入口のタッチパネルで暗証番号を入力する。 玄関は専用のカードキーと予備である普通の鍵を使用。勿論オートロック式だ。 だがその実、本人認証や開錠その全てがスマホアプリから簡単操作できたりもする。普段はスマホ操作でスムーズに出入りができ、何か不具合などあれば即座に手動でも対応という、まさに時代の最先端をゆく高セキュリティマンションである。 購入したマンションの一室に入居する、その初日。 私は足取り軽くプラチナ製のキーホルダーを指でくるくる回していた。 このキーホルダーは父親からもらった成人祝いのプレゼントだ。 緑色のレザーにシャムロックの形をしたチャームが付いている。シャムロックというのはクローバーやカタバミなど三葉のことだ。 私がこのモチーフを好んでワッペンやら刺繍やらしていたことを父親は知っていたらしい。ちょっと意外だった。 だからだろうか、私はこのシャムロックのキーホルダーをいたく気に入っていたし、大事にしようと実家の鍵をつけていた。 これからは、一人暮らしを始める自宅の鍵も一緒につける所存だ。
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