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「ここ十日程、どこをどう探しても君に辿れなかった。今日やっと見つけたんだ…手放すことなんかできない」
ん? 十日程…て、私が引き篭ってた間か。探してくれてたとかどういうこったよ。
いやそれより引き篭ってた間は誰にも見つからなかったと捉えた方がいいのか…。
てことはもしや、私の家は世界で一番安全なのでは…?
ますますに力を込めて私を抱擁してくるこの男に、とりあえずこの場は目立つから場所移動しようと誘いをかける。
なんせ周囲の視線が私たちに集まってるからね。いやね、カップルってのは見るよ。他にももっとラブラブべたべたくっついてるバカップルいるよ。でもね、そいつらはローブ姿じゃないでしょ。なんていうか日常の風景でしょ。バカップルって。その点ローブ姿で姿形隠してるような怪しげな奴らが抱き合っててみ。
おかしいよね。目立つよね。
そんな訳で私たちは移動した。もうちょっと目立たない場所に。といってもすぐそこの路地裏なんだけどね。建物と建物の間だ。
「"パッ"と気配を隠しちゃいましょう。ついでに音も"しーん"。これで遮音できたかな」
「相変わらずインスタントな魔法を使うね」
だまらっしゃい。もう目立ちたくないからね。認識阻害の魔法をかけたのだ。
空飛んでる時にアザレアさんが使ってたから、あれをイメージしながらやってみた。ついでにフードも取ってしまう。阻害魔法かかってるから黒髪を晒しても大丈夫だろう。
ルークスさんもフードを脱いだ。相変わらずハンサムなお顔立ちですこと。
金髪もサラサラで羨ましいわ。
「それで、アザレアさんが狙われてるというのは?」
「聖霊様を付け狙う心無い輩がいるんだ。そいつが今回の戦争の引き金も引いた。未だに聖霊様を狙っている」
ふおおおアザレアさんを狙うストーカーがいるってことですかあ?!
しかもそいつ戦争まで引き起こして最悪じゃん。
許せん!成敗してくれるわ!と、私がここで熱くなってもしょうがないな。
私たち町で普通に買い物しちゃってるもんなあ。そいつが何者かは知らんが、アザレアさんをストーカーするくらいだ。私たちの目撃情報を集める手段があるんだろう。密偵とかさ。と、適当に思いついたことだったけど、実際にこの時、私たちは怪しい輩たちに見張られていたらしい。だいぶ後で分かったことなんだけどね。
「つか、なんで私も狙われるハメに…?」
「君は聖霊様の伴侶だと思われている」
あーそういえばそういう常識みたいなものがありましたね。聖霊を降臨させた人が伴侶とかいうやつね。ちゃうし。私らそんな雰囲気ぜんぜん無いし。
「本当に伴侶ではないのか?」
「違いますって。家族みたいなものだって言いましたよね」
「君がそう思ってても、聖霊様がどう思ってるか…」
「アザレアさんもそうですって。多分、妹みたいに思ってくれてますよ」
日本でもオカマの兄に恵まれてる私である。なんかオカマの庇護欲を掻き立てるらしいんだ私は。だからおそらくこの推測は間違ってない。それ以前にあれはオカマである。女性は恋愛対象に含まれない。
「妹…それは恋にならないか」
「なりませんよ。アナタ兄弟姉妹いないんですか。近親者と恋は始めちゃ駄目ですよ」
「姉がいるが…うん、そうだな。無理だ。断固拒否する」
「でしょう。倫理的にも生理的にも受付ませんて。それより…私を探してたっていうのは本当ですか?」
「ああ、もちろんだ」
ルークスさんが言うには、前会った時に私へ【目】を付けたんだそうな。
比喩表現じゃなく字面そのままに【目】と呼ばれるものを私とキスしてる間につけたとか。気付かなかった…。
【目】はそのまま付けた相手の目と重なり、ルークスさんへ視覚の情報をもたらしてくれるそうな。私と別れた後、その【目】を使ってみたところ森へ着いた途端に消えたという。
それは私の家は【目】で見えないということかなあ。
「この【目】は固有スキルだ。固有スキルは産まれながらに持つスキルで皇族しか持っていない。私はこのスキルを使って国外政策の任に就いている」
「そんな重要なこと私に漏らしてしまってよろしいのですか」
帝国の重要な仕事だろう国外政策とか。
まさか私の父親と同じ職業とは思わなかったけども…。
でもルークスさん、帝国の守護騎士だとか言ってなかったかね。皇族だから国外政策は公務なのだろうか。その辺の事情はよく分からないけれど、心臓がドキドキというか疼いてきた。なんでだろ。思いがけないことばかり聞いたからだろうか。
なぜかルークスさんを前にすると酷く心がザワつく。
落ち着かなくなるっていうか…。
懐かしいような…。
変な気持ちになる。悲しいのに嬉しくて、嬉しいのに哀しいという複雑な感情が入り乱れて、胸が焦がれていく…。
本当に変だ私。
こんな気持ち初めて──────
…いや、初めてじゃ、ないの…?
「別に全てを漏らしたわけでもない。私のスキルのことは……いや、君にはもっと私のことを知ってもらいたいんだ」
また心音が跳ね上がるようなことを言うな。
な、なんか見つめてきてるし…。
綺麗な碧眼が私を射抜く。
その瞳は、やばい。また私の胸を締め付けてくるから。
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