結婚・初夜・授かりもの

2/3
前へ
/277ページ
次へ
翌朝の気分は爽快。 朝の三点セット準備して、本日も出勤である。 ただし外は梅雨らしく雨だけど。 なにも結婚式の次の日から働かなくても…とか、新婚旅行でヨーロッパ一周でもしてきたらどうだと口々に友達からも言われたけど、現実的にパスポートを所持していないから海外旅行には行けませぬ。いつか海外に興味持てば作るかも。 ルークスさんだってエキゾチックジャパンを堪能することが今は最優先だからねえ。新婚旅行は考えてないです。 ちなみに入籍はといいますと、結婚式の前に済ませました。 ルークスさんは稲森家の婿養子になったよ。 異世界の住人とどうやって戸籍を結んだのかって? 謄本もないのにね。不思議だね。その辺はエキスパートな父のコネでアレしてソレしてコレしてなんとかした。ビバ官僚。 約一か月後─────。 じめじめした季節が終わりカラッとした太陽が眩しく照りつける夏が来た。 私は今、式場見学に来たお客様を案内し終え、ふらふらとパウダールームへ。 化粧直しとUVケアをしようと椅子に腰かけ、そこであまりの気持ち悪さに吐きそうになり、むしろ吐きたくなってトイレへと駆け込んだ。 うげー。なんか変なもんでも食べたっけ? 昨夜は焼肉ヒャッホーと、オカマ兄のオカマ仲間たちと盛り上がって我が家で焼肉パーティーしたけど、こんな気持ち悪くなるまで食べた覚えはない。 じゃあ二日酔い?それもないな。私はお酒に弱いの自覚してるから自重した。 まあ自重しなくてもルークスさんが飲ませてくれないんだけどね。異世界でミザリーさんまじえて一緒に飲んだ時の失態を忘れてくれないんだ。 酒に酔った私がとんでもないこと言い出すことより、キス魔になってオカマたちにキス仕掛けることを恐れたみたい。 たとえキス魔になったとしてもオカマ相手に何言ってんだと思うけど、私の旦那様はオカマとお酒に関してはキビシイのである。 はて。そう考えるとこの嘔吐感はなんだろう。 今のところ気持ち悪さが込み上げてくるだけで口から中身が飛び出すことはないのだが、それでも胃から何かがせり上がってくるので、いつ吐くか分からず戦々恐々しながら個室へ閉じこもっている。 そんなこんなしてると同僚から「どうしたー?」と声をかけられ、気持ち悪いから閉じこもってると正直に言ったら「あんたそれ悪阻じゃね?」と指摘される。 ────────ほ? 可能性は無きにしも非ず。なんせ私は新婚さん。 早速スケジュール帳開いて調べてみたら、先月末に来るはずの生理が来てないことに気づいた。生理予定日は一週間以上前である。おかしい。 落ち着け。こういうこと前にもあった。異世界で。あの時はロザンナ医師に相談して、実は寝込んで意識ない間にもう月経が終わってたというオチだった。 今回も誰か医者に相談をしようと思いつくのがオカマ兄一択しかない私の脳内検索が貧弱。いくらオカマとはいえ身内に相談かー…。 「駅前のドラッグストアで妊娠検査薬買って帰りなよ」 はっ!上司からの天啓。この世界には便利な文明アイテムがあった。 誰が開発したか知りませんがありがとうございます。 早速、薬局で買って…て、どこに売ってるのか分からんがな。普段の買い物コーナーじゃないからさっぱりだ。 天井から釣り下がってる案内板に妊娠検査薬の文字はない。さもありなん。 性に関するものはどこにあるんだーと、関連したコンドーさんを探してみる。そしたらその傍にあった。やったぜミッションクリア。 一回用と二回用がある。どっち買おう。使用期限は一年か。次回までにとっておくことができなさそうだから一回用でいいや。今回の分だけ購入。 これだけ買うの恥ずかしいなと歯ブラシも一緒に買う。一見、歯ブラシ二本買ったようにしか見えないこの擬態。完璧である。 いそいそとマンションに帰り、こそこそとトイレへ直行。 便座に座って説明書を熟読してから、いざ実行。実行内容は割愛。 トイレでごそごそしてたら「ハツネ殿ー大丈夫か? 気分悪いのか?」とルークスさんから声をかけられる。 長いことトイレから出て来ない私を心配してくれたんだね。すまん。判定までもうちょっとかかるから「あと三分」と具体的に時間を告げた。 「何が?」と扉向こうの彼を当惑させたようだが気にしない。 きっかり三分後、私はトイレの扉を静かに開けた。 ルークスさんたらまだ扉の前にいた。余程心配だったとみえる。 「ハツネ殿…?」 「ただいまです」 「ああ、おかえり」 「大変お待たせしました」 「ど、どうしたんだ…?」 なんだか彼が怯んでるようだけどなんでだろう。 私の雰囲気が異常な所為だろうか。 大丈夫です。私は平気。この胸の内を早く彼に知らせなければ…と、なぜか緊張を孕んだ空気の中、私は告げた。 「これ…妊娠検査薬…陽性です」 「…………ん?」 「えーと、妊娠しました」 「…────あ」 まさかの「あ」です。第一声。 透明のポリ袋に入った妊娠検査薬を見せてあげる。検査薬はアレコレして不潔になっちゃったから袋に入れたのだ。 透明袋からそのまま中身を見てごらん。 縦線がくっきり出てる。妊娠反応があった証拠だ。つまり陽性。 そう説明した後、ようやく実感が湧いたみたいで、ルークスさんから声もなく抱き締められた。 「ありがとうハツネ」 静かにそう呟いた彼の声が震えていたことが印象的だ。 そうだった。ずっと望んでたことだものね。共に生きた証が欲しいって…。 私も嬉しい。嬉しさが天元突破してこんな変な伝え方になってごめん。 ルークスさんとの子だもの、きっと可愛いね。今から楽しみ。 それからの彼は、こちらの世界での妊娠についてと妊婦さんのケアとをネットで調べ上げる日々。それで知った驚愕の事実。 「妊娠五ヶ月もすれば赤子の性別が判るだと…!!?」 腹部エコーにも同様のショックを受けていた。どうやら医療水準は日本の方が高いようで。帝国にもそれなりに魔法道具による妊娠検査とかあるみたいだけど、性別までは判らないそうな。 帝王切開や全身麻酔、出産時の死亡率の低さや妊娠出産育児における給付金の存在なども驚いたようである。 そして何より…。 「母子手帳は素晴らしいな」 妊婦検診に使う各種クーポンを見てかなり感動しちゃったルークスさん。 陽性反応が出てからオカマ兄のとこで診てもらい、妊娠が確定したので保健センターへ行った。そこで母子手帳を交付してもらった時のことである。 私的に母子手帳と一緒にもらった「新米パパになったら」っていう小冊子が頑張ってると思うよ。こうやってイクメンを育てるんだね。 「これだけ充実した制度があれば安心して子が産める」 そう言いながら調べたことをまとめ上げて資料作成に勤しむ我が家の新米パパ。 明日、聖霊回廊で皇帝陛下と会うから提案するらしい。 残念ながら私は明日も仕事で会えないけれど、ルークスさんには手土産に私セレクトお勧め和菓子セットを渡してある。仲良くお食べください。 何やらエリオンくん(走れよ一歳児)が、私の持ち寄る甘いお菓子類に目覚めたっぽくて、会う度になにがしか甘いものを持っていくのが習慣になったのだ。 虫歯に気をつけてねと注意しながら渡すけど、にぱあぁぁ!と愛らしひ笑顔を見せてくれるので義叔母さんはもうメロメロですよ。 エリオンくん、君は既に女性の心を掴む術を会得してるね。将来、女ったらしにならないことを強く願う。 そんなエリオンくんが将来、日本人の女の子を娶ってしまうとは…今は知る由もないことだ。

最初のコメントを投稿しよう!

666人が本棚に入れています
本棚に追加