22.金髪の天使

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 それから、数ヵ月が過ぎた秋の日曜日のことだった。  実家のチャイムがピンポーンと鳴った。 「ちょっとお、ワタル!今、お母さん忙しいから、代わりに出てくれる?勧誘だったらドア開けなくていいから」 「へいへい」  夕飯作りで忙しい母に代わり、リビングでくつろいでいた僕が腰を上げた。  玄関に続く廊下に一歩踏み出したところで、静電気ではないが、ピリリと何かが身体を貫いていった感じがした。 「ん?何だ・・・・・・この感じ」  空気が変わる。  澄んだ、甘い匂い。  いい意味で青臭い、森林に飛び込んだような、爽やかな、懐かしい香り。  地球上にこんな空気を醸し出せることの出来る人間なんて、会ったことがない。  宇宙中探しても、一人だけだ。 「・・・・・・まさか」  ドクン。  心臓が、急速に高鳴る。 「なあに?急に走って。友達?勧誘なら・・・・・・」  廊下を一心不乱に駆け抜け、僕は勢いよく玄関のドアを開けた。  そこには、一昔前の割烹着を身にまとった金髪の少女がいた。  豊かな長い髪は、黒柳徹子ばりに盛って上に集めてある。    声を出すのが、やっとだった。 「チセ・・・・・・」 「久しぶり。その・・・・・・ふっ、ふっつつかもの、ですが、よ、よろしくお世、お世話します」 「きゃはははは!なあに、その子ーーー!」  僕の様子を奇妙に思ったのか、台所から家事の手を休めて出てきた母が、チセを一目見るなり爆笑する。  しかも変な挨拶の言葉だ。  頭に響いてくる言葉じゃない。  チセは世界でも難解と言われる日本語を、一生懸命覚えてきたのだ。  そしてその格好、頭の形からして、いつの年代かは分からないが、資料を取り寄せ、日本の文化を勉強してきたに違いない。  僕の、僕のために。 「・・・・・・チセ」  緊張してカチンコチンになっているチセを、問答無用に胸に引き寄せる。  もう離さない。  離れない、ずっと。  僕の突然の抱擁に、チセよりも背後にいた母が仰天していた。  腰を抜かした母は、奥の書斎にいる父に向かって、奇声を上げながら這っていく。 「・・・・・・大丈夫、なのか?」  母の狼狽ぶりを心配し、不安そうに僕を見上げるチセに、僕は微笑みつつ、黙って頷く。  大丈夫。全て最高だ。  君が来たからには、もうこれからは、  僕にはもう、幸せな未来しかない。               《終わり》 24f62ba8-44d1-44b5-b190-de07e71faedb
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