《4》酒に呑まれてうっかりした代償が問題すぎた件

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 そんな考えは、強引にねじ込んだ瞬間に耳を劈いた悲鳴に、余すところなく掻き消された。 「……うぁッ、ぃ、痛……ッ!!」  ……痛い?  刺すような悲鳴が耳を劈き、茹で上がった頭が真っ白になる。無理やり押し進めていた腰が、反射的に動きを止めた。  真下に覗く諏訪部の顔を呆然と見つめる。両目からぼろぼろ零れ落ちる涙と、血の気の引いた唇と、シーツを握り締めすぎて白くなった指先が、順に視界に映り込む。  興奮と酩酊感が、一気に冷めていく。 「……あ……」  涙目を見開いた諏訪部と目が合う。  微かに震えて見えた。唇も血の気を失ったきりで、歯がカタカタ鳴り出すのではと心配になるほど震えている。  この真夏だ。  いくら空調が効いているとはいえ、寒いわけはない……もしかして、こいつ。 「あ……違うの。ほら、その……雰囲気って、いうか」  たどたどしい言葉は、大粒の涙のせいで碌な説得力を持っていない。  半端に入り込んだ屹立を引き抜くと、白い大腿を染める赤い血がわずかに覗き、ぐらりと眩暈がした。  タクシーに乗り込もうとした俺の手を引いたときの、寂しそうな横顔。  ホテルの名前を運転手に告げたときの、強張った手のひらの感触。  困惑しきった顔、途中から貫いていた無言。  慣れていない感じしかしない、つたないキスの応酬。  頭が揺れ、自分がやらかしたことの意味にようやく思い至る。 「……なんで言わなかったんだ」 「な、なに?」  無理に笑おうとして引きつった諏訪部の顔が、胸の奥を軋ませる。  床に脱ぎ捨てたワイシャツを拾い上げ、そっと羽織らせた。震える肩を抱き寄せると、諏訪部はあ、と小さく声をあげる。 「怖かっただろ。初めてならそう言えば良かったのに……馬鹿だな」  違う。馬鹿は俺のほうだ。  諏訪部は何度も言っていた。待って、と。  震えの理由は、痛みだけではなく、恐怖もあったのだろう。  壊れる寸前まで沸き立っていた頭も、昂ぶりも、水でも被ったように熱を失っていく。 「……だって……」  ――信じて、もらえないかなって。  くしゃりと歪んだ諏訪部の顔は、それ以上見ていられなかった。華奢な身体を抱き寄せていた腕に、無意識に力がこもる。  乱れた髪を梳くと、呻きに似た嗚咽が聞こえ、肩に生ぬるい液体が触れる。その正体は考えなくてもすぐに理解できてしまい、自分の行動がどれほど諏訪部を傷つけたのか、その後悔ばかりが延々と頭を巡る。 「……ごめん」  ……ごめん、じゃねえよ。最悪。  降って湧いた強烈な自己嫌悪の中、俺は、小刻みに震える身体をただ抱き締め続けるしかできなかった。
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