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《1》傷心の夜、ケバい部下に拉致された件
七月下旬、夏も盛り。
外を歩けば、燦々と照りつけてくる太陽に全身を溶かされそうになるくらいの暑さが続いている。
とはいえ、この時間になればそれなりに涼しくはなる。昨日まではそうだった。だが、今日は随分と蒸し暑く、外気温はなかなか下がる気配を見せない。
空調の効いた室内だから快適に過ごせているだけだ。一歩外に出たらと想像すると、途端に帰宅が億劫になる。
……いや、正確には「帰宅」ではない。
今日は、俺の直属の部下と別部署の女性社員の送別会がある。二課合同ということもあり、納涼会も兼ねているようだ。これから、俺はその現場に向かわないとならない。
残業している場合ではないのでは、と思わなくもないが、別にこれでいい。俺のような立場の人間など、いないほうが絶対に盛り上がるはずだ。
むしろ、あえて率先して残業を引き受けたのだ。にっこり笑って「先に楽しんでて」と言っておけば、誰も訝しく思わない。部下思いの上司が残業代わってくれたぞワーイ、で終了だ。俺の株も上がるし、いいことづくめだと思う。
時計を見ると、午後八時手前だった。
……そろそろ向かわないとまずい。不参加ではさすがに後味が悪いし、なにより残業を代わってあげた部下が気を揉む羽目になる。
社内の飲み会なんてただでさえ億劫で仕方ないのに、よりによって今日の主役は……ああ、考えたくない。そしてものすごく行きたくない。
シャットダウンしたノートパソコンを閉じ、俺は戸締まりのために重い腰を上げた。
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