■ 土曜日 ■

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 最初に来た警官たちは丁寧だった。瑞輝はけっこう心構えをしていたのだが、肩すかしを食らった気分だった。事情を聞かれ、それに答え、説明をしている間に、警察官の数はどんどん増えた。最初の警官が瑞輝に対して同情している脇から腕が伸びてきて、瑞輝は後ろ襟を掴まれて引き倒された。  従順になれと義兄が言っていたので、瑞輝は反撃せずに相手を見た。見覚えのある警官の顔があった。  その目は何だと殴られるとは思わなかった。生まれつきだと唇まで出かかったが、何とか飲み込んだ。あとは心を無にして相手の言葉にいちいち反応しないように努めた。それは別に難しいことではなかった。子どもの頃からずっとやってきたことだ。ガキの頃は意味がわからずスルーしていたのを、今は意味がわかるがスルーするというだけの話。  人が倒れているのを見つけたのに、本当に死んでいるかどうか息も脈も確かめなかった、ということも問いつめられた。まずは救急車を呼ぶだろうということも言われた。ゴルフクラブは見つかったが、野口氏もおそらくゴルフクラブでの殴打だろうということで、瑞輝が逆上してやったんだろうと決めつけられた。それで少しばかり抵抗したら、コームシッコーボーガイだとか何とかで説教だか嫌がらせだか知らないが、難癖つけられた。  深夜に解放されて、晋太郎の車に乗ると心からホッとした。シートベルトをカチリと締めると、シートに体を預けて瑞輝は目を閉じた。 「暴れるなと言っただろう」  晋太郎が車を出しながら言って、瑞輝は姿勢を変えずに目だけ開いた。 「我慢の限界を超えてたんだよ」 「何が限界だ。おまえの目盛りはすぐ振り切れる。おまえがそうだから、向こうだって誘いをかけてくるんだ」  瑞輝は横を向いて、窓の外を見た。なんで俺が怒られなきゃいけないんだ。 「だいたい、どうしておまえが現場にいてこんなことになるんだ。おまえは争いを止めないといけない立場だろう。殴られて倒れてましたなんて、恥ずかしげもなくよく言えたもんだ」  この調子で家まで説教が続くのかと思うと、瑞輝はうんざりした。  黙っていると「聞いてるのか」と静かに言われる。怒鳴れっての。静かに言われると怖いんだよ。 「聞いてます」瑞輝は渋々答えた。 「油断せずにしっかりしてたら起こらなかったことかもしれないんだぞ。おまえ、責任を少しでも感じてるのか?」 「油断なんかしてなかった」 「だったら、ああいうことにはならない。おまえのミスだ」 「センター長が殺されたぐらいで世界は終わんねぇよ」 「瑞輝、怒るぞ」  もう怒ってんじゃねぇかよ。瑞輝は息をついた。  警察官の嫌味より、晋太郎の説教の方がよっぽど骨身に沁みた。どっちも納得がいかねぇってことは共通しているにしても、だ。
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