■ 金曜日 2 ■

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「俺、いろいろあると思うんだよな。人の気持ちがわかってないってよく言われるし、やる事も変だって。見た目も変だろ。嫌だったら言ってくれていいから。ちゃんと関わらないようにする」  ちゃんと関わらないようにする。チョコはおかしくて笑った。  瑞輝は何を笑われているのかわからず困惑する。 「うん、嫌だったら言うね」チョコは笑いを堪えながら言った。  瑞輝は彼女の気持ちはわからなかったが、とりあえず怒ってはないらしいと安心した。いつものようにケラケラ笑っているし。女子ってのはよく笑う。いや、彼女がよく笑うのか。伊瀬谷さんやユアはそんなに笑わない。いつも俺を三角の目で見てる。 「マカロン、家でも作ってみようと思って」チョコはそう言って本を見た。アーモンドプードルの袋を抱えているので立ち読みができない。 「あ、この袋やるよ、それで駅まで俺が持ってくよ。そうだよな、重いよな」  瑞輝は紙袋のパンを取り出し、一つのビニル袋にまとめると、紙袋にチョコから受け取ったアーモンドプードルを入れた。  チョコはニコリと笑って本を手に取った。瑞輝はその横でいろいろなケーキやお菓子の本を見てはよだれを垂らしそうになっていた。  マカロンの本を買い、瑞輝は何も買わずにチョコと店を出た。 「写真を見るのが好きなの?」チョコは瑞輝がケーキの本を買うのかと思っていたので聞いた。 「いや、食う方が好きだ」瑞輝は迷わず答えた。  チョコは笑った。そうだろうな。 「友達が作ってくれたから、何か礼をしようかなと思って」 「友達?」チョコは胸がちょっと傷むのを感じながらも笑った。「女の子?」  瑞輝は少しだけ答えを渋った。が、小さくうなずいた。「幼なじみっていうか」 「そっか」チョコは微笑んだ。思ったよりも自分が傷ついていないことに驚く。 「何をやればいいかわからなくて、あの本を持ってることだけはわかってるから、あれに使うようなもんがいいかなと思って材料を見てた」 「バニラエッセンスとか?」チョコは笑った。「よくケーキを作る子なら、もう持ってるとは思うけど」 「よくは作らない。スポンジケーキに失敗したって言ってた」  チョコはふうんと瑞輝の横顔を見た。瑞輝は遠くを見ている。  ケーキを作らない幼なじみが、ケーキ作りを始めてケーキをプレゼントしてくれたんだ。いいな、そういうの。 「この下に雑貨屋さんがあるよ。お菓子作りのグッズもあるけど、行ってみない?」  チョコは自分でも大胆になったなと感心しながら言った。でも瑞輝がパッと明るい顔をしたので、言ってみて良かったと思う。 「行く。付き合ってくれんの?」  その言葉の響きにドキリとしながら、チョコはうなずいた。「いいよ」
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