■ 月曜日 3 ■

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 その夜、伊藤と合流して、ここ最近の話をすると笑われた。 「しかしほら証明されたようなもんだ、君は交通事故に遭っても死なない。自転車が代わりに死んでくれた。黄龍が完成した証拠だよ」  伊藤は嬉しそうだった。瑞輝は本当かなと思った。  龍清会の会議は退屈してまた眠りそうだった。それでも伊藤にしばかれるので頑張って起きていた。  二時間を何とか眠らずに耐え、今年度の後半の予定なんかを聞いた。どっちにしろ、十一月の国宝島波神社の神事と、大晦日、正月の辺りが忙しいのは毎年同じだ。学校の休みには必ず大きな神事が入れられている。冬休みは連日だし、場合によっては一日に何本も入っていることもあった。そのスキを縫って黒田が冬休みの宿題をしろとせっついてくるに違いない。憂鬱になりそうだった。 「九月はまだマシだよね、国宝級の神事はないし」伊藤は伊吹山へと運転しながら助手席の瑞輝に言った。瑞輝は迷惑そうな顔で伊藤を見た。 「でも小さいのをいっぱい入れてるじゃないすか」 「いっぱいでもないよ。ちゃんと君のペースに合わせてるだろう。山本が制限しろってうるさいから、半分ぐらいに減らしてるよ」伊藤は『山本』と言うとき、明らかに嫌そうな顔をした。  瑞輝はそれを見て小さく笑った。 「山本の特訓は役立ってんのかい? 君が成長してるって気がしないけど」伊藤はジロリと瑞輝を見た。 「俺はわかんないけど、山本先生は」ガツンと頭を叩かれた。 「山本、でいい」伊藤はムスッとする。 「成長してるって言ってた」 「そうかい」  伊藤は不機嫌なまま言った。  それからしばらくは二人は黙っていた。瑞輝が寝息を立てはじめ、伊藤は助手席を睨んだ。のんきな奴め。  伊吹山まで送ってやると、瑞輝は車を降りる時に足をよろめかせて転んだ。 「何やってんの」伊藤は呆れて瑞輝を見た。  瑞輝は顔をあげると、胸を押さえて顔をしかめた。 「めまいがするんです」 「おや、黄龍君が病気かい?」 「病気って言うか…揺れてる」 「揺れてる?」伊藤は瑞輝の顔を見た。ちょっと疲れた顔はしているが、これは一晩眠れば復活するだろう。 「揺れてません?」瑞輝は辺りを見る。夜風が吹いて木々が揺れている。「地面が」と付け足す。  伊藤は首をひねった。「地震ってこと?」 「それを言うと晋太郎が怒るんで、ここだけの話ってことで」瑞輝は唇の前に指を立てた。  フンと伊藤はそれを無視した。 「君のお兄さんが怒るかどうかなんて興味ないね。君だけが揺れてるなら『那維之神』に取り憑かれたんじゃないの?」 「ナイノカミ、って、ないさんって呼ばれてるアレすか?」 「そうそ、君がゴルフクラブで殴られたっていう、あそこの神様。那維之神は地震の神様だよ」  瑞輝は空を見上げた。伊藤もつられてフロントガラスから上を見る。しかしそこに特に何もないのもわかっている。黄龍君は空を見ているのではない。風を見ているのだ。 「伊藤さん、もう一回下に連れてってくれませんか?」 「いいけど。神様と直談判かい?」伊藤は楽しそうに言った。  瑞輝はうなずいた。「ちょっとやってみないと」  伊藤もうなずく。「君のそういうところ、好きだよ」
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