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■ 火曜日 3 ■
ぐったりとして体を起こすと、見慣れた自室だった。カーテンが引かれた窓の隙間から明るい光が差し込んでくる。振り返っていつもの目覚まし時計を見ると、九時だった。学校は遅刻だ。
瑞輝は布団から出て立ち上がった。立ちくらみで頭がガンガンしたが、何とか壁を伝って居間へ行く。
その途中で吐き気がしたので、居間と並んでいる台所の流しに吐いた。水で口をゆすぎ、そのまま流しの下に座り込む。ジェットコースターに二十回連続で乗ったみたいな気分の悪さだった。しかし瑞輝はジェットコースターに乗った事がないので、本当のところはよく知らない。泰造の話を聞いて想像しているだけだ。
政子が忙しそうに雨の中、庭の整理をしているのが見えた。
瑞輝はヨロヨロと立ち上がって、掃き出し窓にもたれて立った。窓は半分開いている。
「おはよ」と瑞輝が声をかけると、政子は驚いて「わぁ」と言った。
振り返って瑞輝を確認すると、彼女は何かの鉢を手に持ったまま寄って来た。
「瑞輝、起きてて大丈夫なの?」
瑞輝は首を振った。「わかんない」
その答えを聞いて、政子は笑った。
「じゃぁ寝てなさい」
「学校は」瑞輝は青白い顔で言う。目が再び今にも閉じそうだ。
「学校は休みなさい。晋太郎が連絡してたわよ」
政子が言うと、瑞輝はうなずいて居間の小さなソファに倒れ込んだ。眠い。
「あとね、野口さんが目を覚まされたって」
政子が言っている声が聞こえたが、瑞輝はそれをふわふわする頭で聞いた。また揺れている気がする。目を閉じると暗闇に吸い込まれた。
見慣れた日丘の町が粉々に砕けている夢を見た。あちこちで煙が上がっていて、人々が泣き叫んでいた。瑞輝の足元にも亀裂が入っていて、がれきが山のように積もっている。いつものきれいな田園風景はなく、壊れた屋根瓦が小さな道に散乱し、手足の取れたクマのぬいぐるみが転がっていた。小さい女の子が裸足で泣きながら親を捜している。怪我をしていて頭から血が流れている。そんな人々がたくさんいる。
後ろかがうめき声が聞こえて、瑞輝が振り返ると、ばあちゃんが洗濯物を持ったまま家の壁に押しつぶされている。瑞輝は慌てて柱を持ち上げようとするが、もちろん上がらない。
「晋太郎!」瑞輝は晋太郎を呼ぶ。晋太郎を探して神社の方へ行くが、神社も倒壊している。瑞輝は作りかけの晋太郎の新居を見に行く。晋太郎の妻の純が倒れている。頭と大きくなった腹から出血している。生きている感じがしない。瑞輝は駆け寄り、彼女の体を揺する。
「嘘だろ、やめてくれよ、なぁ」
神社の本殿がチロチロと燃えている。瑞輝はそっちを見た。普段は無人なら火がある場所じゃない。もし火が出たとしたら、晋太郎がいたということだ。
「晋太郎!」瑞輝は走って本殿へ行く。晋太郎の袴が瓦礫の間に見えた。壊れた本殿の壁土の下に指が見えた。薬指に指輪をはめている。その指に反応はなく、瑞輝はパニックに陥りそうになる。炎が近づく。
「瑞輝」と細い声が聞こえて、瑞輝は瓦礫をかき分け、何とか隙間を見つけようとした。
「晋太郎、今助けるから」
「逃げろ」細い声が聞こえる。
「嫌だ」瑞輝は怒鳴る。火が脇の木々に燃え移る。神社は木製で土壁。よく燃える。メラメラと炎の勢いが増し、煙が喉を焼いて咳き込ませる。
「逃げろ」と晋太郎が言う。「嫌だ!」瑞輝は爪が割れるのをちょっと舐めて、力一杯瓦礫を崩そうとする。生木が燃えて黒い煙が立ちこめる。そして奇妙な匂いもする。熱はどんどん熱くなる。
逃げろと晋太郎がまた言う。
嫌だ。瑞輝は晋太郎の「逃げろ」が聞こえないように、大声で叫ぶ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
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