■ 秋分 ■

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 目を開くと、うつぶせに倒れてはいたが、体は粉砕していなかった。瑞輝は腕をついて体を起こし、肩で息をした。背中を大粒の雨が打つ。警告が強くなってるわけだ。四神と協力してズレを戻さないと大きな揺れが来るぞと那維之神が言っているんだ。この大地がじわじわ揺れているのもそのせいだ。クソ。四神だって?  じいちゃんが守ろうとした町を、俺も守りたい。  いや、それは嘘だ。俺はユアの作るシフォンケーキが食いたい。そんだけだ。  何が悪い。俺は俺の好きにする。  瑞輝は立ち上がると、前を向いた。小学校の方へと続く道を見る。小学校の横の池に水龍がいる。瑞輝が七歳の時に落ちた池だ。一緒に落ちた友達が死んで、助けようと飛び込んだ瑞輝だけが助かった。そんなことがあって人々が瑞輝は人を殺すと噂する。水龍が救ってくれたなんてことはじいちゃんにしか言わなかった。龍憑きってこれ以上言われるのが嫌だったから。  でも今はそんなことどうでもいい。龍憑きで良かったよ。だって龍同士、話が合うかもしんねぇだろ?  瑞輝は那維之神の社前には居なかった。 「来たのは来たみたいだな」晋太郎は暴風の中で怒鳴るように泰造に言った。 「なんでわかる」泰造はまだ薄暗い社を見て眉間にしわを寄せた。 「こんなことするのは、あいつしかいない」  晋太郎は、社の前に置いてあるキャラメルの一粒を見て笑った。この暴風でも飛ばされないように、上に石が乗せてあった。  車に戻り、晋太郎は持ってきた紙を広げた。純に瑞輝が案内した四神の位置を地図に書いてもらったのだ。書いてもらってから気づいた。確かに瑞輝が昔から気にしている場所だったからだ。気にしている理由は知らなかった。晋太郎がその理由を理解できないと踏んで瑞輝も言わなかったのだろう。 「次はどこに行く? だいたい瑞輝を見つけてどうするつもりだ?」  泰造が運転席で言う。  晋太郎は親友を見た。まったく痛い質問をする。 「瑞輝は自分ができることをやってるんだろう。だったら俺たちは別の方向からアプローチした方がいいんじゃないのか。例えば龍清会を通して、この辺に地震来るぞって圧力かけてもらうとか。そういう大人の事情を使うのは瑞輝にはできないんだからよ」  晋太郎はじっと泰造を見た。 「何だよ」泰造は首をすくめる。「怒ってんのか?」 「いや。おまえはいつも的確だなと思ってな」  泰造は笑った。「何を言ってるんだ、照れるだろ」 「そうだな」晋太郎は泰造に構わずうなずいた。
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