■ 日曜日 ■

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 瑞輝は一人で勝手にセンター長の病院前をうろうろしていて、家族に見つかって何をしに来たんだと殴られた。何しに来たと言われても瑞輝自身も説明できなかったらしく、ちょっと近くを通りかかって様子を見るぐらいもダメなのかと言って揉めたという。  晋太郎はそれについても腹を立てる。それで小言を言うと、瑞輝はすねるように自室に戻ってしまった。 「大丈夫かな、瑞輝君」  心配顔で純が言った。  晋太郎の妻、純は腕のいいヒーラーだった。元々は瑞輝の傷を治すために探したのだが、通ってもらっているうちに家族になった。瑞輝は化学薬品に微妙なアレルギーを持っており、その上、龍気を使うと表面に現れないダメージを負うようだったので、純の助けは必須だった。  彼女は晋太郎に負けないぐらい淡々としているが、冷静というよりは穏やかというのが似合っている。違和感を感じられないぐらいにふわりと優しく守られているような気がする。晋太郎は瑞輝が彼女の治療を受けている時、ふと嫉妬しそうになる。義理の弟の瑞輝が、彼女からめいっぱいの優しさを受けている気がして。 「不器用だからなぁ」純は救急用品を片付け、読みかけていた本を手に取る。 「もうそろそろ不器用だとかいう言い訳はきかなくなってくる。今のうちに軌道修正しとかないと」  晋太郎は自分と彼女に淹れたコーヒーのマグカップをテーブルに置いた。  ありがとう、と純が微笑む。  リビングの続きのダイニングテーブルとキッチンは、手狭だが四人家族の今はこぢんまりと使いやすい。この自宅の続きに、晋太郎は夫婦用の小さな家を建てている途中だ。純のお腹の中には赤ん坊がいるのだし、家族が増えれば生活も変わる。 「強制的に修正するのはどうかなぁ」純は本を開いたまま、目を晋太郎に向ける。  晋太郎は彼女の斜め向かいに座った。 「あいつが自分で学ぶのを待ってると何十年もかかる。多少は仕方ないよ」 「最近の瑞輝君の口数が減ったのは、反省してるんじゃないよ。当惑してるんだよ」  彼女に真っ直ぐ見つめられて、晋太郎は彼女を見返す。 「わかってる」晋太郎は息をつきながら言った。「でも今、多少荒療治しておくと、後が楽だろう」 「それって、幼稚園の子に小学校受験させて、後が楽だからって遊びたい子を塾に引きずっていくのと似てる」  晋太郎はじっと純を見た。本当のことを言われると腹が立つという。でも彼女に言われると、温かい声で目を覚まされるような気がする。 「瑞輝君は晋太郎が好きだから、一生懸命合わせようとしてるじゃない? 晋太郎は遠くで待っていて、瑞輝君が近づくたびに、その分、また離れていってるみたい。その場所で待ってあげられない? 瑞輝君が一度追いついてから、次はあそこを目指そうって一緒に行けない?」  晋太郎は考えた。それは理想的だ。「でもそれじゃ、瑞輝は今以上の努力をしなくなる」 「そうかなぁ」  純が微笑んで、晋太郎はコーヒーを飲んだ。どうかな。でもそれを確かめている時間もない。瑞輝は今でも充分大きすぎる力を持っている。コントロールする力を養うのは当然の務めだ。 「瑞輝君は今までもちゃんと封印できてるもの。何もしなくても大丈夫だと思うな」  純はゆっくりと言った。まるでものすごく遠い外国の話をしているみたいだと晋太郎は思った。 「だけど黄龍の完全覚醒は今まで誰も見た事がないんだし、用心しておくに越した事はない」 「見た事ないんだから、あんまり心配することないよ。案外、ありのままの瑞輝君でうまくいくかもしれないよ。瑞輝君は世界そのものなんだもの」  そう言われてみれば、そうなのかもしれないと晋太郎は思う。
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