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「おおお」泰造が言った。
片付けを手伝った農家を後にして、自分たちの車に戻ろうとしていたところだった。晋太郎は足を止め、上の電線がゆらゆらと揺れるのを見た。
「何だ、おおおって」
「揺れたなぁ。瑞輝の予言が当たった」泰造は嬉しそうだった。
「あいつの予言は、日丘が全滅するような地震だって話だった。今のはせいぜい震度三…」
またグラリと揺れた。泰造と晋太郎も思わず体を屈めたぐらいだ。近くの家でガチャンと何かが割れる音がした。キャァという声がしたが、それ以上には続かなかった。揺れもすぐに収まる。
「わお。今のはちょいとでかかったぞ。震度五ぐらいはあった」泰造は体勢を戻して言った。
「だからどうして嬉しそうなんだ」
「予言が当たったからだ」
「瑞輝は悲しんでいるだろうよ」晋太郎は辺りを見回した。ブロック塀にヒビが入っていたり、古い看板が外れて落ちていたりする。台風の影響か、地震でそうなったのか、よくわからない。
「そうか、瑞輝が那維之神に食われた証拠ってこともあり得るわけだ」泰造は急に心配顔になる。
「神は人を食わない。大丈夫ですか?」
晋太郎は驚いて飛び出して来た町の人に声をかける。
「あ、宮司さん、これって那維之神の祟りですか?」町民が聞く。
「どうでしょう。那維之神の怒りなら、もっと激しい気がするんですけどね。この程度で許してくれるなら良かったですね」
「晋太郎!」泰造は落ち着いて応対している晋太郎の背中を叩く。「瑞輝を探しに行くぞ」
晋太郎はぐいと引っ張られて、町民に会釈して泰造の方に向き直る。
「探してどうするんだ」晋太郎はさっき泰造に言われたことをそのまま返す。探しても俺たちにできることはないぞ。ましてや那維之神に食われてたら誰も瑞輝を救えない。
「俺が顔を見たいからだ!」泰造は胸を張って言う。
晋太郎は泰造を呆れて見つめた。「勝手な奴だな」
「そうだ。勝手だ。悪いか。おまえは瑞輝を探したくないのか」
晋太郎は少し考えた。「探したい」そりゃもう、ずっと前から、台風で混乱する街の人を助けることなんて放棄して、一刻も早く探したいと思ってたさ。それを意味がないと止めたのはおまえじゃなかったか、泰造。
「行くぞ」
泰造が顎で車の方を示した。
「腑に落ちない」晋太郎が助手席に座りながら言うと、泰造は「深く考えるからだ」と言った。
確かにそうかもしれない。
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