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 地面が揺れて、出入り口が塞がれたときには、さすがに瑞輝も怖くなった。視界はまったくの闇になって、風の感覚も何も届かない。だから手探りで壁を探した。両手を広げれば簡単に壁が触れるはずだった。手を広げ切る前に水音が聞こえた。そして手が壁に触れると、それが脆く崩れ、瑞輝はそれに驚いてバランスを崩しそうになった。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。とにかくこの先に祭壇があったはずで。そこにきっと亀がいるんだろう。少しずつ前に進む。靴が水に浸る。地面が柔らかくなっている。そして狭くなっている。  これはヤバいんじゃないのか。引き返した方がいい。  瑞輝は後ずさりで数歩下がった。外には先生もいる。きっと俺が埋まったことはわかってるだろうから、すぐに掘ってもらえる。だから。  水が上からポタポタと落ちて来ている。瑞輝は手を上に伸ばして天井を触った。ふわっと怖いほど柔らかい土の感触があって、瑞輝が触った刺激で土がどさりと崩れた。石混じりの土が次々に落ちてくる。頭を守るのが精一杯で、何が起こったのかわからなかった。  土と水に押しつぶされるように地面に這いつくばっていたが、次々に土がやってきて瑞輝の体は奥へ奥へと押し流された。不意に音と振動がなくなったと思うと、激しく流れる水の中に落ちた。水中で体が回転し、コンクリートらしき固い壁にぶち当たった。相変わらず真っ暗で何も見えないし、空気の代わりに砂混じりの水が口に入ってくる始末。止まるまで何もできねぇな。てかそれまで生きてんのか俺。  唐突に明るくなり、瑞輝は水と一緒に崖を四、五メートル落ちた。体が浮く感覚に、恐怖がついてくる。心臓が跳ねた。泥が入ったせいで目が痛く、景色は見えなかったが、落下の感覚だけは確かに感じる。手足を伸ばしてみたが、それは空しく宙を引っ掻いた。  そして瑞輝は早い流れの川にドボンと落ちたようだった。背中が痛み、空気が途絶える。その上、水の流れが体を回転させる。また制御不能状態に陥っている。肺が空気を求めて喘ぐ。体の力も抜けて行き、ああもうどうしようもねぇと思ったところで顔が水面に出た。  近くで電車がガタンゴトンと走る鈍い音がした。
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