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「申し訳ないんですが、瑞輝はここにはいないと思います」
「え?」伊瀬谷はさらに困惑した。「どういうことです?」
「鈴木さんとお話をしてもいいでしょうか」
晋太郎は鈴木建設の社長を見た。
「ええ」伊瀬谷は鈴木を呼んだ。鈴木はヘルメットをかぶったまま、急いで晋太郎のところへやってきた。
「入間さん、今、一生懸命やってますんで」
「ありがとうございます」晋太郎は頭を下げた。それで鈴木慌てて頭を下げる。
伊瀬谷は何だか晋太郎の周りだけ、時間が静かに流れているような気がした。慌ただしく怒声も交わされる周りと空気が全く違う。
「瑞輝はここにはもういない気がするんです。話すと長くなるんですが、瑞輝は那維之神を中心とした東西南北の要所に印を置いて行ってます。残りは一カ所。地下にあるはずです。鈴木さんが異変があるとおっしゃっていた、あの場所がどうやらそのポイントと関係があるみたいなんです。泰造」
晋太郎は手を伸ばした。その手に泰造から地図が渡される。
晋太郎はその地図を地面に広げた。湿った地面だが気にしない。石を適当に拾い、ポイントに置いていく。
「ここは掘っても、キャラメルぐらいしか出ない」泰造が重機を見て言った。
「泰造、余計なこと言わなくていい。とにかくあそこには下水道が通ってましたよね」
晋太郎が目を上げ、鈴木社長はうなずいた。
「はい、通ってます」
「この崩落した奥に、そこにつながる下水道管はありますか?」
鈴木社長は地図に指を這わせた。
「ここから真っ直ぐ南下する雨水用管が通ってます」
「人が流されるぐらいの?」
「ええ、ここは南北の主要線ですから大きいです」
「そこから、どう流れます?」
「日丘の水は、全部、東の渡利川に流れます」鈴木は下水道のラインを指で描いた。「この辺りに出るかと」
晋太郎は顔を上げた。「瑞輝はその辺にいると思います」
伊瀬谷も鈴木も目を丸くした。
「良し、探しに行こう」
泰造が景気良く柏手を打って言った。それに弾かれるように、鈴木も立ち上がった。
「しかし発見の連絡があるまでは、我々はこちらを捜索続けます」
晋太郎はうなずいた。「よろしくお願いします」
「いや…」鈴木はまた慌てて頭を下げた。「彼には恩がありますから」
晋太郎はニコリと笑った。
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