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渡利川はもともと水量の多い川ではない。普段は子どもたちが足首辺りまでの川で水遊びをしたり、少し流れの緩い場所で釣りをしたりする、のどかな川だ。川の真ん中には中州があり、虫も鳥もたくさんいる。
しかし台風の後で、水量は増えていた。中州は見えなくなり、流れの速さも増している。いつもは透明に近いきれいな水だというのに、今日は茶色に濁ったコーヒー色をしていた。
河原はいつもより狭くなっていたが、もともと広く勾配もある河原なので瑞輝が引っかかる場所も残されていた。
「意外とみんな協力してくれるものだな」
泰造は河原で一緒に探してくれている町民の多さに驚いていた。
「八年前に瑞輝が山で行方不明になったときも、町中が探してくれた」晋太郎は懐中電灯で念入りに辺りを見ながら言った。
「ああ、おまえが施設に入れようって言って、瑞輝が傷ついたときだな」泰造が意地悪な顔で言う。
「そうだ」晋太郎はそう言うのがわかっていたように答えた。「瑞輝は疫病神と言われているが、厄を振りまいてるわけじゃない。厄を自分に集めてる。そんなことはみんなわかってる」
「ふうん」泰造は肩をすくめた。「じゃぁホントに一部か、瑞輝を放り出そうとしてたのは」
「そうだ。古い住人はわかってる。新しい人にはなかなか本当の意味では理解できないかもしれないがな」
「俺もわからんね」泰造は言った。
晋太郎はふふんと笑う。おまえはわかってるさ。
「宮司さん!」
呼ぶ声がして、泰造と晋太郎は顔を上げた。懐中電灯がグルグルと回っている。
「見つかりました!」
泰造は晋太郎がゴクリと唾を飲むのを見た。懐中電灯を持つ手が小さく揺れる。
「行こう」
泰造は晋太郎の背中を叩いた。
「嬉しかったら、ヤホーって喜べよ」歩き出した泰造は横で晋太郎を突ついた。
晋太郎はチラリと泰造を見た。「まだ瑞輝かどうかわからないし、生きてるかどうかも」
「あんなわかりやすい外見の奴、見間違えるかよ。それに死んでたら、あんな弾んだ声出すかよ」
「わからないだろ」
そう言いながら、晋太郎は少し歩く速度を上げた。
瑞輝は川に流されたらしく、鈴木建設の社長が言ったよりも下流で見つかった。半分体を川につけたままで、ほとんど泥人形のようになっていたらしい。それでも見つかったのは、金剛寺で借りたナイロンジャケットの背中に反射素材が使われていて懐中電灯にキラリと反射したからだった。
「また水龍に食われてるぞ」駆け寄った泰造が言った。「低体温になってる」そう言って彼は瑞輝の濡れた服を脱がせると、代わりに乾いた自分のシャツを着せ、ギュッと抱き寄せた。
「毛布と温かいお湯を用意してくれ」
晋太郎がそう言って、泰造は親友を見てニヤリと笑った。二度目だもんな。対処は心得たもんだ。
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