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「ありがとう」晋太郎が受け取り、メモの彼女の名前の横に『マカロン』と書くのをユアは見た。ユアの名前の横は空白だ。
もう一人の子も、小さな花束をどこに置こうかと晋太郎に聞いている。晋太郎がナースステーションに聞いてみると言って、彼女もペットボトルでいいんじゃないかなぁと一緒について行った。
「もしかして、チーズケーキの方ですか?」小柄なかわいらしいマカロンを持って来た子がユアに言った。
ユアは驚いて彼女を見た。
「入間君の幼なじみのバスケ部の」ニコニコと彼女が言う。
ユアは目を丸くしてうなずいた。どうしてこの子が知ってるの?
「あ、私はただのクラスメートです。入間君とは…特に何てことはないんですけど、私がお料理部だから、クラブで作ったお菓子とかをお裾分けして…」
「ああ…」ユアは笑った。「瑞輝は甘いもの大好きだから」
チョコはユアの笑顔を見て、それから自分も笑った。ああ、やっぱりこの人も入間君が好きなんだなと感じる。
「素敵ですよね、好きな人のためにケーキを作るって」
「え」ユアはキラキラと目を輝かせる彼女を見て戸惑った。「好きっていうか、瑞輝とは腐れ縁っていうか」
小柄な女の子はあまり気にしていない。
「幼なじみっていいですね。羨ましいです」
「そうかな」ユアはこの子かわいいなと思った。女の子っぽいというか。私にはないものがある。しかもお菓子をくれるんだったら、瑞輝はこの子のこと好きになっちゃうかもしれない。アレ、それじゃ瑞輝が犬みたい。
ユアはクスッと笑った。
「ケーキ作り、頑張ってくださいね。私いろいろ本も持ってるし、良かったら」
ユアは彼女を見た。この子も瑞輝のことが好きなんじゃないだろうかと考える。
「いいの?」聞きたいことはいっぱいあるんだけど。
「いいですよ」チョコは寝ている瑞輝をチラリと見て微笑んだ。「私、入間君がお菓子を食べてるところ、何ていうか…ちょっとこんな言い方、変だけど、すごく可愛いなって」
ユアは笑った。「そう。普段が仏頂面だから、面白いんだよね。もう、小さい頃からそうなの」
チョコは心がほわんとあたたかくなる気がして笑った。ユアも肩をすくめて嬉しそうに笑う。
「ほら、充分ですよ」京香がペットボトルを半分に切った花瓶に花を生けて戻って来た。
「ホントだなぁ」晋太郎が感心している。
チョコとユアはお互いを見て、ニコリと笑った。
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