23人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「私は何も持って来てないの」
みんなが出て行って急にしんとした病室に少し緊張しながらユアは言った。
「だって、急だったし、もっと起きないかもって聞いてたし」
「いいよ別に来てくれただけで」瑞輝は少し離れて立っているユアを見た。顔を見ると照れるから、視線をずらすと胸に当たって、慌ててユアの体の前で組んだ手を見る。それも何だか不自然なので、結局は自分の手元に目をやった。
「良かったね、犯人も捕まったし、女の子も見つかったし。瑞輝が悪いんじゃないってみんなわかってくれたと思うよ。どっちかっていうと、瑞輝が町を救ったみたいな話も出てるんだよ」
瑞輝は小さく笑った。「それは違うな」
「そう思ってくれる人もいるってこと。私はよくわかんないけど、瑞輝はいろんなこと先にわかってるんだよね。地震もわかってたからみんなに知らせたんでしょう? それで酷くならないように、神様にお祈りしに行ってくれたから被害が少なかったって言ってた」
「誰が?」
「お店のお客さん」
瑞輝はまた首を振った。「違う。俺は先のことは全然わからない。みんなと一緒。今のことしかわかんない」
「みんなと一緒」ユアはニコリと笑った。「そうなんだ。なんか…良かった」
「俺も自分で何やってるかわかんねぇもん。なんか、こうしなきゃいけねぇって思ってやってみるだけだし。あれがホントに良かったかどうかもわかんねぇ。どうせやり直せねぇんだし、後からこうやってたら良かったとか言うのは何とでも言えるからさ。今やってることだけが、結果になるわけだろ。だからやってみるだけで、誰のためとかじゃない」
ユアは伊瀬谷が座っていたベッドサイドの椅子に腰掛けた。そしてスカートの裾をちょっと気にする。
瑞輝は彼女を気にしないように努めながら、自分の包帯だらけの手をじっと見ていた。
「瑞輝は変わんないな。ずっとそんな感じだよね」
「保育所から成長しねぇって?」瑞輝は笑った。
「それもあるけど」ユアは笑って答えた。「やりもしないで後からゴチャゴチャ言うな、とかさ、ケンカばっかりしてバカみたいなんだけど、ホントは芯があるよね。芯のところだけしか見えてないって欠点もあるけど」
「何だよ、それ」
ユアは瑞輝を見て微笑んだ。「褒めてんだよ」
「そうか。ありがと」
瑞輝はそう言って視線を窓の方に向けた。いい天気みたいだ。
最初のコメントを投稿しよう!