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瑞輝はチケットとお守りとをじっと見て、それから天井を睨んだ。
何かわかんねぇ。わかんねぇけど、このままじゃダメだ。
布団をはがし、脈拍計のコードも外すと、ベッドを降りる。左足にはギプスがついていて、右足も腰も背中も痛いが、そういう問題じゃねぇ。車いすが壁際に畳んであったが、時間がもったいないので足をひきずって病室の外に出る。
もう遠くに行ったと思って「ユア!」と廊下で呼ぶと、出て少し行ったところのベンチにユアは座って顔を手で覆っていた。そして瑞輝に気づいて顔を上げる。
「なんで泣いてんだ」
瑞輝は壁に手をついてユアを見た。
「あんたに関係ないでしょ」ユアは涙を拭く。
看護師がナースステーションからやってきて目を見開いた。「入間君、何してるの」
「ちょっと待って。一分だけ」
瑞輝は看護師に言った。看護師は瑞輝の視線の先のユアに気づき、彼女と瑞輝を見比べると、ニコリと笑った。「五分よ。ちゃんと部屋に戻って安静にね」看護師は別の病室へと入っていった。
瑞輝は息をついてユアを見た。
「言い直す。退院したら、付き合おう」
ユアはじっと瑞輝を見ていたが、口をへの字に曲げた。
「やだ」
瑞輝は黙って彼女を見た。そっか。目を伏せる。
「なんで退院したら、なの? 今でいいじゃん」
ユアが言って瑞輝は彼女を見た。「何か…自信がなくて」
ユアは小さく微笑む。そうなのよね、瑞輝はいっつも変なところで自信をなくしちゃう。
「ちゃんと寝てね。冷蔵庫にポッキーも入ってるから。食べて」ユアは瑞輝に小さく手を振った。「また、明日」
瑞輝は彼女が歩いて角を曲がるのを見送った。ひょいと隣の病室からクマが顔を出す。
「うわぁ」瑞輝は驚いて髭面の梅沢を見た。
「やるなぁ、少年」梅沢は嬉しそうにノシノシとやってきた。「血圧上がったんじゃないか?」
瑞輝はベッドに戻り、大きく息をついた。「心臓がバクバクしてる。手も震えてる」
「おう、そりゃ大変だ。しばらく退院できんな」
梅沢はニヤニヤ笑って言った。
「先生、結婚するのって大変だな」瑞輝は梅沢を見た。彼の指に結婚指輪があるのは知っている。
梅沢は大笑いした。「そうだぞ、結婚を申し込むときなんか、死にそうに震えるぞ」
「ガキんときは、毎日言えたのにな」
「おまえ、毎日求婚してたのか?」
「意味、わかってなかったし」
「やるなぁ、少年」梅沢はまた笑った。
瑞輝は窓の外を眺めた。青い空に高い雲が見える。
「そのままでいいって」瑞輝は小さく笑った。「すげぇ」
「すげぇな」
梅沢も一緒にうなずいた。
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