■ 月曜日 5 ■

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「剣道部、終わるの待ってる。その後でいい」瑞輝は下から少しまぶしそうに見上げて言う。  藤崎は首を振った。「部員たちに見せたい。おまえが命張って磨いてきたモノを。うちの部は覇気がないだろ」 「ないな」瑞輝は笑った。「指導者が悪いんじゃねぇ?」  藤崎は瑞輝の言葉を無視した。 「汚い手を使ってでも勝てとは言わない。でも自分の全力も出せずに、負けても頑張ったよななんて言い合ってるようじゃなぁ。試合に負けて、自分にも負けて。どうしようもない。厳しくすると部員は減るし」 「珍しいな、先生が愚痴るなんて」瑞輝は楽しそうに藤崎を見上げて笑う。そう言いながら、彼はゆっくり立った。そのぎこちない動作を見て、藤崎は瑞輝がまだ体の端々を傷めているのだなと思った。 「俺が行ったせいで部員が減るかもしれねぇぞ」瑞輝はそう言って横顔に陰を作る。 「そのときは、そのときだ」藤崎は瑞輝の歩幅に合わせて歩いた。 「でもこの前、先生は入部試験でそいつの向いてる方向みたいなの見るって言ってたじゃないか。エンジョイコースってのもあるんなら、楽しくわいわいやってるのも道なんじゃねぇの?」 「エンジョイコースばっかりじゃ意味がないんだよ。去年は諸井が居ただろう。アレがバランスを取ってた。諸井の真面目さにみんなが引っ張られるところがあったんだ。でも残った部員にも新入生にも、強烈な個性の奴がいない。なんだかぽわーんとした団体になっちまった。おまえぐらいの刺激があってちょうどいいぐらいだ」 「剣道バカの諸井さんね」瑞輝も思い出したらしく苦笑いした。「会うと呼び止められて剣道の話ばっかりで、顔を合わせるのが嫌だったな。俺、廊下で遠くに諸井さん見えたら、逃げてたもん」  そりゃ知らなかった。藤崎は笑った。しかし諸井ならやりかねん。 「決闘しろって言うんならいくらでも受けて立つんだけど、剣の哲学を議論したいとか…ホントに困った人だった」 「そんなこと、一度も俺に苦情を上げなかったじゃないか。諸井を止めてくれって言ったら、俺だってあいつに一言、言ってやるぐらいはしたのに。常識のない奴じゃないから、きっとすぐにやめたと思うぞ」 「そうだな」瑞輝は軽く目を伏せた。「半分ぐらいは俺も楽しかったのかもな」  藤崎は瑞輝を見て軽く笑った。
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