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■ 月曜日 ■
純のヒーリングがうまくいったのか、瑞輝は翌日の昼には目を覚ました。自室に入ってからの記憶はなく、どうして倒れたのかもわからなかった。お守りはいつも身につけていたから、たぶんポケットから出したんだろうということだった。
痣から出血するというのは、これまでにも何度かあった。ただ、一本につながった全身の痣から一様に出血したのは初めてだった。
入間家にある黄龍之書という古い本には、完全覚醒がどういうものであるかという予測が書いてあった。ただ現実の記録ではない。あくまでも予測の一つ。それが『兆候』の活性化。というものだった。『兆候』ってのは、瑞輝が持っているモザイク型の色素欠乏症みたいな、外から見てコイツは違うとわかるような印だ。瑞輝の右目が茶色でも金色でもなく、赤っぽくなっている。血が混じったとかではない。黒目の部分が赤っぽいのだ。
そしてひどい頭痛が続いているらしかった。これじゃ気を失っていた方がマシだったと瑞輝がつぶやいたので、晋太郎は眉をひそめた。
「どうしておまえはそうなんだ」晋太郎は瑞輝を見て言った。
「何が?」瑞輝はケロリとしてシャツを着替える。まだ熱はあるようだが、顔色は昨日より良くなっている。
晋太郎は黙って首を振った。気味が悪いとは言わないが、明らかに変だとは思う。そんなことは昔からだから気にはしないが、全身から流血しておいて血が止まった途端に傷が塞がり始めるってのは異様だ。
「どう見ても、完全体って感じじゃないよな。不完全だ」
晋太郎は瑞輝をじっと見た。瑞輝は首をひねる。
「何言ってんだ、さっきから」
「昨日のが『兆候』なんだったなら、今のおまえは完全体のはずだろう? どこからどう見ても、おまえは不完全体だ」
瑞輝は自分の手足を見る。
「完全だよ」と両手を広げる。
「この髪も中途半端な金髪だし、目も半分だけだし、色も何とも言えない中途半端な色だし、勉強はできないし、運動能力がとてつもなくいいわけじゃないし、洞察力に優れているわけでも、人を惹き付ける力があるわけでもない。普通のどこにでもいる、むしろ普通より劣ってるぐらいのガキだ」
瑞輝は晋太郎をじっと見て、何度か瞬きをした。言われたことを頭の中でもう一度巻き戻して聞く。
「ケンカ売ってるのか?」
晋太郎はテンポの遅い瑞輝に苦笑いする。
「売ってない。完全体ってのはどういうのなんだろうと思ってな。おまえがいきなり天才になったり、人を諭すようになったらわかるんだが。おまえがバカなままだとわからない」
「バカと黄龍は関係ねぇだろ?」瑞輝は真面目に聞く。
「しかし黄龍が万物を司るという龍清会の意見や、黄龍之書の記録を信じるなら、おまえが万物を司るって意味になる。万物を司るには、かなりの知恵と慈愛がないと無理だと思うぞ」
「ジアイって何?」
晋太郎はその質問は首を振って無視した。国語辞典ででも調べろ。そういう対応に慣れている瑞輝はチェッと舌うちはするが、実のところそれほど悔しくも思っていない。
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