■ 月曜日 5 ■

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「うん、あれは良かったな。先生とはテレパシーが通じんのかもな」瑞輝は屈託なく笑う。「また、たまにやってみたい。最後に斬り落とすのはナシで」  藤崎は苦笑いした。「ああ、あれは済まない。ちょっと調子に乗ってしまったな。流れ的には、そのまま静かにフェイドダウンするはずだった」  瑞輝はうなずいた。「でも今日はアレで良かった。俺がちゃんと自分をわかることができて感謝してる。先生が道を教えてくれたようなもんだ」 「いや…そんな」藤崎は困惑する。自分ではミスをしたと思ったのに、感謝なんてされるとどうしたらいいかわからなくなる。 「あと、覇気の話だけど、先生と部長で話をしてみたらいいかもしれない。今の部長のヒト、チームまとめらんなくて迷ってるみたいだよな。諸井さんは黙って率いるタイプだったけど、あの部長は違うタイプなのに同じようにやろうとしてる。違うって言ってやれば、変わるんじゃない?」  藤崎は少し目を伏せ、地面の芝を靴先で撫でながら言う瑞輝を見た。 「そうか、ありがと。やってみる」  剣道部を見学したあの短時間でいろんな問題点を発見したのだろうなと思う。それを全部聞きたい気もするが、おそらく一割も話してくれないのではないかとも思う。 「桜、咲いてる?」  瑞輝が目を伏せたまま言い、藤崎は顔を上げた。桜は濃い緑の葉を茂らせているが、花は見当たらない。 「咲いてないな。おまえには見えるのか?」 「上には見えないよ」瑞輝は藤崎の方を見て笑った。そして自分の足元を指差す。「これ、桜の花?」  藤崎は下を見た。桜の横に立っている記念碑脇に、若い枝が十センチほど伸びていて、その先に小さな白い五弁の花をつけている。根元の土は最近掘り返されたように、色が少し違っている。 「桜だな」藤崎はその場に屈んでじっと花を見た。「こんなところに四季桜…にしてはちょっと早いけど」 「校長が植えたのかもな。秋にも咲く桜がどうのって言ってたから」 「そうか」藤崎は桜の花を見て微笑んだ。この生徒と、あの校長がどんな会話をしたのかと思うと、少しおかしくなる。どちらもちょっと変わり者だからなぁ。  ブルブルと振動音がして、瑞輝がポケットから携帯電話を取り出した。そしてそのメールをじっと読む。 「バイトか?」藤崎は瑞輝を見た。  瑞輝は携帯電話を閉じると、にっと笑った。「違う。呼び出し」 「ケンカの?」藤崎は眉を寄せた。まだ怪我が治ってないというのに。 「違う」瑞輝はペロリと唇を舐めた。「シフォンケーキ。じゃ、先生、俺、急ぐから」  走れないが、精一杯駆け出しそうに歩いて行く瑞輝の背中を見て、藤崎は首をひねった。  シフォンケーキ? end. ※Yellow Dragon -last-でシリーズ終了です。
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