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桜の木の枝をバシバシと適当に剪定鋏で切り終えると、瑞輝は枝を集めて焼却場へ運んだ。それから藤崎に食堂で食券を買ってもらい、ラーメンを一人ですすった。藤崎は剣道部の指導があるからと武道場へ消えた。
放課後の食堂が瑞輝は好きだった。昼休みの食堂は混雑していて生徒同士も食堂のおばちゃんもイライラしがちだが、放課後はのんびりしている。部活動の合間に休憩にくる生徒がいたり、先生が何人かで自販機のコーヒーで語り合っていることもある。夕方になると夜間部の学生がやってくる。
食堂のある校舎の二階が家庭科室だった。覗きにいきたい衝動にかられたが、万が一、京香に見つかったら痴漢扱いされかねないので我慢する。京香はテニス部だから、校舎内にはいないとは思うのだが。
ラーメンを食べ終わり、食器をカウンターに返して食堂を出ようとしたら、その会いたくない方に会ってしまった。別に話もないので無視して行こうとしたら「ちょっと」と呼び止められた。
聞こえないフリをして行こうと思ったが、テニスラケットで突つかれた。一緒にいたテニス部の女子数名が顔をひきつらせていたが、京香は気にしない。
瑞輝は仕方なく立ち止まって京香を見た。「何でしょう」
何だよ、とケンカ腰の答えが返ってくると思っていた京香は出端をくじかれた。
「チョコを待ってるんじゃないでしょうね」気を取り直して京香は瑞輝を見た。「先に行ってて。すぐ終わるから」京香はテニス部の友人たちに言うと、瑞輝を食堂の外の廊下に連れ出した。
「帰宅部のくせに何してるの」
「ラーメン食ってた」瑞輝は素直に答えた。
「ずっと?」京香は腕組みをする。あんたなんて怖くないんだから。
「ずっとじゃない」
「じゃぁ何してたのよ。チョコのストーカーしてるんじゃないでしょうね」
瑞輝は肩をすくめた。「してない」
「何してたの」
「話すとややこしいから言わない。友達想いなのはいいけど、敵を間違ってる」
「敵?」京香は目を丸くした。敵なんていない。
瑞輝は黙ってくるりと背中を向けた。「忘れて」
京香はポケットに入っていた練習用のテニスボールを取り出した。それを瑞輝の背中に投げつける。
瑞輝は背中に当たったボールが転がるのを見て拾い、京香を振り返った。京香は投げつけ返されるのかと思って身構えたが、瑞輝はそれを廊下にバウンドさせて緩く返した。
「ナイスピッチング。野球部に入れる」
瑞輝が言って、京香は相手を睨んだ。
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