■ 水曜日 ■

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 桜木は苦笑いする。晋太郎はいつものように呆れて何も言わない。桜木の前で恥ずかしいと思っているのかもしれない。 「とにかく、あの下水道はどうしたらいいのか一緒に考えてやれってことだ」  桜木は解説してやった。瑞輝は晋太郎をチラリと睨んだが、やはり何も言わずにうなずいた。 「トンネルを埋めないとしてってことだよな?」瑞輝は腕組みをする。 「当たり前だろう」晋太郎が冷たく言った。 「なんでそれが可能性ゼロって言えるんだよ」 「ゼロだ」晋太郎は瑞輝を見て断言した。  瑞輝は小さく舌うちをした。うるせぇな、このクソ宮司め。 「上向きに穴を開けたらいいんじゃね? 水が通るようにさ。あの上の道もそうしたじゃん。俺にはよくわかんなかったけど、水を通す石の道を作るってじいちゃんが言ってたよ」 「ああ、透水性舗装な」晋太郎はうなずいた。そう言えば、あの上の道ができたとき、台風等の雨など、大雨ごとに水のトラブルが絶えなかった。それで父が呼ばれて見に行って、何か助言したと聞いている。 「あの辺りは水の重要な通り道なのか?」  桜木が聞くと、瑞輝は顔を上げて眉を寄せた。 「そうだよ、見りゃわかるだろ?」 「普通の人間はわからない」晋太郎が横から言う。瑞輝は横を見た。 「晋太郎はわかってたよな?」 「今、知った」晋太郎は事もなく言った。  瑞輝は二人を見ると、信じられないという顔で首を振った。 「とにかく、そうだよ。だから…」 「わかった。水を通すことが大事なんだな? もしそれが不可能だとしたら?」晋太郎は瑞輝を見た。 「不可能なら、毎回修理すりゃいいんじゃねぇ?」 「それを極力少なくしたい」晋太郎は根気よく言った。 「そうだな…。ちょっと無理に通してみる? そうすっと、他が変わるけど」 「無理を通せば道理が引っ込むってヤツか?」  瑞輝は一拍置いた。言葉の意味がわからなかったんだなと晋太郎も桜木も察した。 「なんか、そう言う感じ」と瑞輝が言って、二人はそれぞれに笑った。晋太郎は冷笑を、桜木は微笑みを。 「どうやって無理を通す?」晋太郎が次を促す。 「川を作るのと一緒だよ。自然にできてた流れを、強引に脇に持ってくる。そうしておいて、別のルートからもとの道に戻す」 「バイパスみたいなもんだな」 「バイパスな」瑞輝は適当にうなずいた。なんかよくわかんねぇけど。 「それをおまえができるのか?」 「たぶんな。でも知らねぇぞ、その代わりが絶対にあるんだからな。俺に返ってくるんならいいけど、俺以外のところに返って来て、俺が疫病神とか言われるんだぞ」 「慣れてるだろ?」晋太郎は事も無げに言う。  瑞輝は眉を寄せた。「ホントに俺の事、弟だと思ってんのか?」 「冗談だ。おまえは疫病神じゃない。それについては俺も心を痛めてる」 「嘘つけ」瑞輝はムスッとして饅頭をもう一つ食べた。「たまに俺は回転してるんじゃないかなって思うんだよな。俺がどっかでやったもののズレが次の日に依頼として来て、それを直したズレがまた次の日に依頼として来て、そのズレがまた次の日に来てってしてんじゃないかなって」 「かもしれないな」晋太郎はあっさりと言った。「だが気にするな。そういうことを考え始めるとキリがないとおまえも言っていたじゃないか」 「ありがとよ、なぐさめてくれて」  瑞輝は麦茶を飲み、はぁと息をついた。 「いつやる?」  晋太郎は小さく唇に笑みを浮かべながら聞いた。弟だと思ってるよ。でなきゃこんな口も頭も悪い奴と一緒に暮らせない。でもバカじゃなきゃできないこともたくさんあるからな。頼りにもしてる。 「工事をやってない時。夜中とか早朝? とにかくあの人たちに会いたくねぇ」  うむ、と晋太郎もうなずいた。「向こうも会いたくないだろうな」  うるせぇよ。瑞輝はまた小さくチッと舌うちをした。  桜木は二人を微笑みながら眺めた。この二人は何かといがみ合ってるが、それなりに仲も良いようだ。 「じゃぁ鈴木建設の件は頼んでいいかな」  桜木が言うと、二人はほぼ同時に答えた。晋太郎が「もちろんです」と言い、瑞輝が「高いぞ」と言って晋太郎に耳をつねられていた。
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