■ 金曜日 ■

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「誰がこんなことをしたのか、心当たりはないのか?」栗山が聞く。  藤崎も安達も、瑞輝の担任を呆れて見た。そんな愚問をしたら…。  瑞輝はへらっと笑った。「心当たり? 多すぎて名前挙げられないすよ」  ほらな。藤崎は苦笑いした。 「それより、そこの人と決闘させてくれよ、先生」瑞輝が話をまた元に戻す。城見は少し警戒して安達を不安そうに見た。さっき、柔道部顧問の安達と剣道部顧問の藤崎に、二人で寄ってかかって決闘はやめておけ、怪我するからと説得されたばっかりだ。入間瑞輝ってのがどれだけ恐ろしいか、二人は真剣な顔で教えてくれた。どうしてあいつが一年生の時に上級生と仲が良かったと思ってるんだ? 仲が良かった山内って生徒なんて、高校を中退するか卒業しても極道の道に入るだろうなと誰もが諦めてたんだぞ。それが入間に会って改心したんだ。それぐらい奴はスゴイんだ。何がすごいって、あいつは古武道ってやつをやっていて、基本は人を殺めるための技を習ってる。普段は禁じられてるから使わないが、立会人がいるとなると本気でやりかねない。さっさとこの話はなかったことにしておくほうが得策だ。二人は熱意をもってそう語った。どうも面倒だからとか、ややこしくなるからという雰囲気はなかった。二人は本気で城見を心配しているようだったし、本気で入間瑞輝をどうにかして止めようと思っているようだった。 「そんな紙切れ、誰だって作れるだろうしよ。そんなもんに俺は恨みはねぇんだよ」 「入間、弁当ぐらいでそんなにキレるな。何が入ってたんだ?」  安達はとにかく話を聞いてやることにした。 「何が入ってたかじゃねぇよ。ばあちゃんは俺がちゃんと食ってっか気にするんだからよ。不意打ちで今日の何とかどうだったとか聞かれるんだぞ。食ってねぇとか言えねぇじゃんよ」  つまりは弁当の恨みで城見を殴りたいというわけか。安達は苦笑いした。ゴミ箱の恨みでもないのだな。 「よし、ではこうしよう。俺が入間の家に電話する。今日はこういうことがありまして、弁当がこぼれてしまいました。ついては…」 「やめてくれ」瑞輝は安達を睨んだ。「そんなことしたら、かえって俺が疑われる。もういい。何とか自分でする」 「悪いな」安達は笑った。かわいい奴だ。 「で、怪文書なんだけど」藤崎は話を戻した。「おまえの様子を見てたら、犯人探しはいらないわけか?」 「犯人? そんなもん知ったところでどうするんだ」  瑞輝は教師たちを見た。城見は安達の後ろで静かにしている。 「悪いことだからな、一応」藤崎は笑った。被害者がそう思ってないとしても。 「犯人見つかったら、そいつ、停学とかなんのか?」 「場合による」安達は腕組みをして答えた。「悪質だと罰則も考えないとな」  瑞輝はうなずいた。そうか。 「心当たりがあるんじゃないのか?」栗山が懲りずにまた言った。 「あるよ、無数に」瑞輝はまたヘラッと笑った。「一人を選べってのは無茶だな」  栗山はムッとして生徒を睨んだ。藤崎は苦笑いする。そのうち栗山先生が怪文書を流すんじゃないかなぁ。困ったなぁ。 「城見、おまえは入間より先に教室に来てたんだろ。何か見てないのか」  安達が城見を振り返って言った。 「俺が来た時はもう半分ぐらい教室にいたし…黒板にも何か書いてあった的なことは言ってたよ。女子が消したんじゃねぇかな。そいつ、何か知らねぇけど女子には評判いいから。陸上部とか今日は早く朝練終わったって言ってたから見たかも知れねぇな。俺、聞いてやろうか」  城見は少し身を乗り出して言った。 「それより俺と決闘しろ」瑞輝は城見を指差した。 「やめろ」安達は瑞輝の伸ばした腕を下げさせた。「じゃぁ城見、ちょっと偵察してみてくれ」 「わかった」城見は少し嬉しそうにした。 「城見、後で入間の破れたノートとか弁償しとけよ。そんでおまえは俺と一緒に食堂に来い」  安達は瑞輝を顎で呼んだ。 「なんで」瑞輝が警戒する。 「ラーメン奢ってやっから」安達は瑞輝の首をグイと掴んだ。「栗山先生、生徒借りますね」  栗山が返事をしないうちに、安達と瑞輝は武道場を出て行く。 「ってことで。進展があったらまた」  藤崎は栗山と城見を笑顔で見た。栗山は微妙な固い表情でうなずいた。城見は決闘しなくて良くなったのでホッとしていた。
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