■ 金曜日 ■

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「犯人、おまえはわかってるんじゃないのか?」  安達は瑞輝がラーメンを食べるのを見ながら言った。瑞輝は「ほわ?」と目をあげる。 「犯人だよ」安達は顔を近づけ、小声で言った。 「知りたくもねぇ」 「知りたくもねぇけど知ってしまってたりしないか?」 「知らねぇよ」 「おまえは嘘つきだからな」 「嘘なんかついてねぇ」瑞輝は不機嫌そうに安達を見た。「誰だとしても、かわいそうになとは思うよ。俺はあんなことで全然ダメージはないわけだろ。それなのに余計なことしたばっかりに、先生に怒られたりさ。そいつだけ損っていうか。俺がもっとセンサイな奴だったら良かったんだけどな」 「犯人に同情するなんて余裕だな」 「俺はさぁ、ポジション的には悪役なわけだろ。そういうのをさらに落とそうってのは、やっぱり難しいんだと思うな。だってよ、誰もびっくりしねぇだろ、俺が人を呪い殺したとか言ってもさ」 「いや、普通にびっくりするだろ」安達は頬杖をついて瑞輝を見た。 「そうか? 俺、チビんときからいろいろ言われてきたから慣れちゃってんだな」瑞輝は笑った。 「明るいな」安達は呆れる。 「暗い顔しててもいいことないからな」 「そか」安達は笑った。そういうところは見習わないといけないな。「ところで入間、ちょっと相談があるんだが」 「だろうな、ただでラーメン奢ってくれるわけねぇし」 「バレてたか」 「さっきからそわそわしてっし。何だよ、聞くだけ聞くよ。俺にもできることとできないことがあるんだからな。記者会見の日を晴れにしろとか、株価を上げろってのは無理」 「誰だ、そんなことおまえに頼むのは」安達は眉を寄せた。 「それは言えない」 「聞きたくないよ」安達は息をつく。まったく。「たぶんおまえには簡単な話だよ。友達がちょっと変わった人形を拾ってな」 「拾うなよ、人形なんか」瑞輝はラーメンの汁を少し飲んでどんぶりを置いた。そして満足そうに息をつく。唇を手の甲で拭うと、プラスチックのコップで水を飲み、安達を見た。 「拾っちまったもんはしょうがないだろう。近所の子どもの忘れ物かと思ったんだそうだ」 「夜中になると髪が伸びるのか?」 「違うんだよ。毎朝微妙に置き場所が移動してるんだってよ。気のせいかもしれないって言うんだけど」 「気のせいだ」瑞輝は素っ気なく言った。 「そう言う前に見てくれ。車に乗せて来た」 「なんで持ってくるんだよ。気味悪いだろうが。怨霊とか籠ってたらどうするんだよ」 「だからおまえに見てもらおうと思ったんだろう」 「先生、誤解してるんじゃねぇ?」瑞輝は顔を近づけて来た安達の顔を見た。「俺は霊とかそういうのは全然わっかんねぇんだから」 「ええ?」安達は驚いて瑞輝を見た。「話が違うじゃないか」 「違わねぇよ。最初っから俺はそういうのは無理って言ってんだろ。そういうのは坊主の世界だからな」 「ええ? そんな世界に宗教境界があるのか?」 「そりゃそうだよ。俺は悪魔払いとかできねえぞ。それぞれ担当の世界があるわけ」 「なんだそりゃ。全部一カ所でやってくれよ」 「と言われてもな」瑞輝は困って真っ直ぐ背筋を伸ばした。「一応見てみるけど」  安達は瑞輝の手をギュッと握った。「ありがとう!」 「気色悪いだろ」瑞輝は手を振り払った。  それから二人は食堂を出た。瑞輝は相変わらず乗り気じゃなかったが、それでも何とかついてくる。
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