■ 金曜日 ■

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「ある程度の護身術は身に付いているんだし、本気を出せば超人的に立ち回れるんだから、あとは相手に合わせて加減をするだけだ。コツがわかればきっとすぐにできるようになる」  山本が安心させるように言った。簡単に、とはいかないだろうが、できないことはないはずだ。 「今のまんまじゃダメなのか」瑞輝は桜木を見た。 「おまえが限界なのは誰の目にも明らかだからな。一時的に助けを借りることは格好悪いことじゃない。一人で抱え込むには大きすぎるんだ。それを龍清会が押し付けたのは、半ばおまえを壊すためじゃないかとわしは思う。彼らはもとより、おまえに力を任せることには懐疑的だったしな」 「この人も龍清会の紹介なんだろ?」 「伊藤さんの紹介だ」  ふん。なるほど。瑞輝はうなずいた。龍清会の異端児、伊藤光星の紹介なら信用できる。伊藤氏は龍清会の中でも唯一瑞輝を温存しようとした人間だ。この世に味方は僕だけだよと甘い言葉で瑞輝を惑わす悪い癖はあるが、ちゃんと本気で行動し、瑞輝に情報も与えてくれる。 「わかった」瑞輝はうなずいた。そして山本を見る。「俺は何すりゃいい?」  山本は伊藤の名を聞いてからの瑞輝の従順さに驚きながらも、背筋を正した。 「とりあえず、さっきと同じように自分の力を出す調整を始めよう。神事や依頼のない日に、黒岩神社を借りてやることにする。だからしばらくは個人的な依頼はできるだけ受けないように。どちらにせよ君は依頼を受け過ぎなんだ」  瑞輝は山本を見たが文句は言わなかった。明らかに言葉を飲み込んだのがわかって、桜木も山本も胸の内で苦笑いした。なるほど、こうやって溜めてるのか。山本はうなずいた。 「わかった。今日から?」瑞輝が聞いた。 「いや、明日からでいい。こっちも準備があるしな」  瑞輝はうなずいて桜木を見た。「あの人形、置いて帰ってもいい?」 「困る。神社で始末してくれ。うちは人形供養はしてない」桜木は顔をしかめた。 「霊はついてない?」 「ついてない」 「ちいさい子どもも?」 「子ども?」桜木は瑞輝を見た。 「山本先生も見えない?」瑞輝が言って、山本も人形が入っている紙袋を見た。 「専門外だな」山本は首を振った。  瑞輝はため息をついてうなずいた。「わかった。じゃぁこっちで始末する」  桜木は瑞輝が渋々紙袋を持って部屋を出て行くのを見ながら苦笑した。晋太郎君に叱られるんだろうなと。
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