■ 金曜日 ■

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 また警察に呼び出された。晋太郎は不機嫌な顔で自分の車を警察署の駐車場に入れた。  池に落ちていたベビーカーに、行方不明の女の子の名前がひらがなで書いてあったので、警察から照会が行われ、実際にその女の子のものだということが判明していた。  瑞輝はそこまできて、初めて本当のことを話した。学校で先生に頼まれたこと。先生も友達に頼まれたって言ってた。金剛寺で見てもらって、神社にも持って帰ったけど、黒岩神社じゃ預かれないってことになって返そうと思った。  問題はそこからだった。受け取った教師に連絡を取らず、一人で池に向かっている。どこで拾ったかというのも聞かず、状況も知らないのに。説明ができなかった。なんとなく、だと言うと、家から離れすぎていると言われた。距離の問題かという疑問がよぎったが黙っていた。  言外におまえが関わっているのではないのかという匂いがプンプン漂う質問が多かった。三年前は瑞輝は十四歳。相手が三歳の子なら簡単に何とでも出来る。少年犯罪でも最近は厳罰を与えることもあると説明してくれる人もいた。前のスポーツセンター長の犯人も見つかってないしな、とかも言われた。  晋太郎が来るまでの数時間をそういった言葉の中で過ごし、さすがに少し滅入った顔で瑞輝は晋太郎のところにやってきた。 「だから何でも受け取ってくるんじゃないと言っただろう」  晋太郎は瑞輝に言った。瑞輝は黙っていた。  明日、あの池を捜索しますと刑事が言っていた。ついては彼にはまだいくつか聞きたいことがありまして。 「知ってることは全部言った」瑞輝は刑事を見た。彼はうなずいたが、それは了承のうなずきではなかった。 「少しだけで結構です。また一晩眠ったら思い出すこともあるかもしれませんから」  晋太郎はそれについて了解した。何かお手伝いできるならと。 「手伝いじゃねぇ。あいつら、俺を疑ってるだけだ」  瑞輝は車に乗ってから、たまらずに言った。 「拒否したらパトカーがしょっぴきに来るぞ。どっちがいい?」晋太郎は涼しい顔でシートベルトをつけながら言った。「そんなことになったら、お母さんが倒れる。うちの胎教にも悪い」  瑞輝はムスッとシートにもたれた。「そうだな、義理の弟より、胎教だよな」  晋太郎は黙って車を出した。拗ねてる奴の話を聞くほど暇じゃない。 「俺は何もしてねぇ」  瑞輝がしばらくしてからボソッと言った。 「おまえはバカか」晋太郎はため息をついた。「そんなことは思ってない」  瑞輝は聞いていないのか、窓の外をじっと見ている。 「晋太郎の家を造ってる大工のオッサンがいるだろ。あの人が言ってた」  晋太郎は窓を見ながらボソボソ言っている瑞輝をチラリと横目で見た。 「怒っていいって」  晋太郎は「ああ」とうなずいた。まだ話が続くと思っていた。  が、瑞輝はそこで話を終えたようだった。ぷつりと会話は途絶えた。晋太郎はラジオをつけた。陽気な洋楽が流れ出す。
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