■ 土曜日 2 ■

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■ 土曜日 2 ■

 池があるのは隣町だったが、田舎のさしたる事件もそうそう起こらない、あるとしたら畑泥棒か空き巣程度の町にとって、行方不明の女の子の持ち物を瑞輝が持っていた、というニュースはあっという間に広まった。相変わらず意識が戻らないスポーツセンター長の事件も瑞輝だと大方の人間が思っている上、そういう話が乗ると、簡単に瑞輝が幼い女の子を殺したってことになってしまっていた。  警察には朝から行って、昼には帰れると思っていたら夕方まで残された。その時間のほとんどはひとりぼっちで狭い部屋に残されていただけだ。椅子に座って、自分の呼吸の音を聞いていた。時々警察官が来て、一時間ほど話し込んだり、ちょっと顔を出して「言う気になったか?」と聞くだけだったりした。  池での作業は空振りだったようで、他には何も出て来なかったようだった。一応ゴミを分別して何かヒントになりそうなものは探すらしいが、まだ時間もかかりそうだ。  瑞輝としては安達とその友達ってのがどうなったか心配だった。昨夜、晋太郎が連絡していたようだが、詳細は聞いてない。警察官が「先生は人形は見たことないって言ってたぞ」なんて嘘をついていたが、それを聞いて驚くほど瑞輝もバカではなかった。安達がそんなことを言うわけもなく、本当に言っていたらもっと警察官がうるさいはずだった。  五時きっかりに事情聴取は終わった。警察もお役所なんだなと瑞輝は感心した。この前のスポーツセンターの時は通報時点で定時を過ぎていたから夜中というか早朝までかかったんだな。  警察署の前で家に電話をして、終わったから帰ると晋太郎に伝えた。  珍しく晋太郎が迎えに行こうかと言ったので、瑞輝は気味が悪いからやめてくれと言った。自転車もあるし、自分で帰れる。晋太郎は笑って、じゃぁ家で待ってると言った。  警察署を出てすぐの信号で青になるのを待っていたら、スクーターが二台横付けしてきて、ケンカをふっかけてきた。ロリコン野郎とか言っていたが、無視して信号が変わった時に行こうとしたら、左折ついでに自転車を蹴飛ばされて道で派手に倒れてしまった。  まったく程度の低い奴らばっかりだ。瑞輝は膝と肘を擦りむいたので、自転車を押してとにかく道を渡った。自慢のメタリックブルーの塗装が剥げていたが、仕方なかった。いつかは汚れたり剥げたりするものだし。ライトのプラスチック板も割れていた。モノを粗末にすると罰が当たる。瑞輝は恨み言にならないように、そう心の中で思った。特定の誰かを思い浮かべたりしない。どうせスクーターの二人プラス後ろに乗っていた二人のことは顔も見てないから思い浮かべることもできない。  瑞輝は横の車道を見た。道は真っ直ぐに東に続いていて、途中から斜めの道に合流して大きな車道になる。合流した辺りにスポーツセンターがあって、その向こうに調子の悪い下水道があって、そこから南に下って行くとベビーカーを拾った池に出る。  瑞輝はくるりと前に向き直った。この東西を走る道をもう少し西に戻ると金剛寺で、そこを北上すると高校がある。  頭の中で地図を描き、不調のあった場所をマーキングしてみる。真四角にでもなっていたら何かの兆候なのにと思ったが、まったく何の規則性もない形だった。強いて言えば、高校を先端とした矢印に近い。
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