■ 土曜日 2 ■

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「あの、俺、やっぱ今日はまずいと思うんですけど。昨日の今日だし」 「まだこんなところにいたのか。早く家に帰れよ」  警察官が後ろからやってきて、瑞輝の横で止まった。制服じゃなければ警察官とわからなかった。 「何言ってるんだ、つまんない思いをしたんだろう。気晴らしにおいでって言ってるんだよ」  ユア父が言う。瑞輝は警察官を見た。制服だから誰も彼もが一緒に見える。 「帰ります」瑞輝は警官に言った。 「え、うちに来ないのかい?」ユア父が言う。 「今日はやめておきます。帰らないと」 「これどうした。血が出てる」警官が言った。瑞輝は肘を掴まれて、携帯電話を別の手に持ち替えた。 「おじさん、ちょっとまた後でかけ直します。今日は行けないんで、ケーキは食ってください」 「ケーキ?」警察官は首をひねった。  瑞輝は電話を切って携帯をポケットにつっこみ、肘を振り払うと自転車にまたがった。 「帰ります」  ややこしいのはもう嫌だ。瑞輝は自転車を漕いで逃げようと思ったが、自転車が思うように走らなかった。ぎこちない動きで左右にブレるので、瑞輝は諦めておりた。そして自転車を押して歩いた。 「故障か?」  警察官がついて来る。  瑞輝は黙ってうなずいた。金剛寺に置いて帰ろう。別の日に自転車屋に持って行こう。 「反対側だけど自転車屋ならあるぞ」警官は警察署の方を指差した。  瑞輝は首を振った。「いい」 「すぐそこだ。金がないなら貸してやる」  瑞輝は警官を見た。「金はある」 「歩いて帰るのは大変だろう。伊吹山まで二キロはある」 「いい。そこの店は嫌いだから」瑞輝は前を向いた。  ふんと警官は鼻で返事をした。「嫌いなのは君か?向こうか?」  瑞輝は息をついた。「どっちも」  警察官は首を振ったが何も言わなかった。  そのまま二人は並んで歩いた。瑞輝は迷惑に思う一方で、警察官がいることでさっきのスクーター乗りのような迷惑な奴が近づいてこないのはありがたかった。 「娘が去年、同じクラスだった」  ポツリと警察官が言った。  瑞輝は思わず足を止めて相手を見た。「伊瀬谷…さん?」  警察官はニコリともせずにうなずく。「君が非協力的で困ると言っていた」 「スミマセン」瑞輝は肩をすくめた。あれ、だったら家はこっちじゃないはずだ。チョコと校門で手を振って別れているのを何度も見たことがある。  そうか、監視か。瑞輝は納得した。ちゃんと家に帰るかどうか見てるってことだな。  またポケットの携帯電話が唸っている。瑞輝は立ち止まって電話を出した。警察官も止まる。  ユアだ。あるいはユア父だ。ユア父なら無視してもいいが、ユアだとマズい。 「出ていいですか」瑞輝は警察官に聞いた。 「君の携帯だ」警察官は顎で出ることを促した。
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